ダンポポの種

備忘録です

西宮を知る授業

2007年08月29日 15時16分47秒 | 備忘録
 西宮で過ごした小学生時代-。

 3年生のとき、社会科の授業で、地元・西宮のことをいろいろと学んだ。
 恐らく、年間を通じた学習テーマとして、「自分たちが住んでいる地域のことを学ぼう!」とかいう方針が立てられていたのだろうと思う。その一年間、社会科の授業内容は「西宮のこと」ばかりだった。そのため、出版社発行の『教科書』では内容的に使い物にならなかったと見えて、代わりに、西宮市当局(たぶん、教育委員会)によって独自に編集された冊子を教科書代わりに使っていた。

 そういう学習テーマが反映されたものだったのか、3年生の二学期に行われた遠足(秋の遠足)の行き先は、『バスで西宮市内を一周する』というものだった。
 市内にある酒造工場の見学(=社会見学)を核にして、海岸寄り(市南部)から山間部(市北部)までの市内全域を貸切バスでぐる~っと一周してくる遠足だった。遠足というよりもドライブの感覚に近かったような、西宮三昧の一日だった。乗り物酔いをする子にとっては、つらい遠足だったのではないかと思う。

◇            ◇            ◇
 
 遠足が済んだ後の、ある日の社会科の授業-。

 授業の冒頭に、先生は児童全員にプリントを配りはじめた。
 それには西宮市の白地図が刷られていて、なぜか、市内を通る鉄道と国道のラインだけが太線でくっきりと描きこまれていた。
 とりあえず、鉄道ファンの私には『なんだか楽しそうなプリント♪』に見えた。

「それでは…、そのプリントに描かれた、鉄道と道路の〝名前〟を書いてみなさい」
と、先生はおっしった。
 小学3年生がやることなので、定期試験と呼ばねばならぬような重大深刻なものではなく、理解度を測る〝小テスト〟の一種…、といったところだっただろうか。

 鉄道ファンの立場からすると、このテストは面白かった。私はカリカリと鉛筆を動かした。
 とにかく、まず、鉄道(路線)の名前を書いてしまおう!
  ・阪神本線
  ・国鉄東海道本線
  ・阪急神戸線
  ・東海道山陽新幹線
   以上、西宮市内を東西方向に横切る鉄道路線。(福知山線も入っていたっけな?)

  ・阪神武庫川線
  ・阪急今津線
  ・阪急甲陽線
   以上、西宮市内を南北方向に走る鉄道路線。

 白地図に描きこまれた鉄道線のそれぞれに括弧が付されていて、そこに路線名を書き入れていく方式だった。「阪神」や「国鉄」や「阪急」という大雑把な答え方はダメで、きちんと路線名の「○○線」まで書かなくてはならなかった。
 鉄道ファンにとっては〝日ごろの成果〟を問われているようなテストだったが、かく言う私も、阪急甲陽線の箇所では『阪急甲陽園線だったかな…?』と一瞬迷ったりして、思い直して正しく記入し、事なきを得たようなことである。
 小学3年生なので、厳密にはまだ習っていない漢字が含まれたかもしれないが、鉄道路線名については、私は全部漢字で書いた気がする。


 次に、国道(主要道路)の名前を書き入れていく。
 白地図には、市内を通る高速道路と一般国道のラインが描かれていて、同様に、括弧が付けられていた。
  ・国道43号線
  ・国道2号線
  ・国道171号線
  ・名神高速道路
  ・阪神高速道路(神戸線のこと)
というぐあいに、ここでも私の鉛筆は滑らかに動き続けた。

 よく見ると、白地図には、市域北部にもラインが描かれていた。
『え? 北部を通っている道路…? ああっ、中国自動車道のことか!』
 すぐにひらめいた私だったが、さらに、中国自動車道と絡み合うように〝もう一本〟のラインが描かれている。

『なんだ、この道路は? そういえば、国道が通っていたような気も…』

 「中国じゅうかん自動車道」と書いたのか「中国じゅうかん自どう車道」と書いたのか、記憶は定かでないけれど、そこだけ平仮名混じりで書いた〝中国自動車道〟の記述を最後に、私の鉛筆は動きが止まった。中国自動車道と絡み合っている〝もう一本の道路〟の名前が分からなかった。一般国道なのだが、何号線だったっけ。

 試験終了の号令のタイミングを見計らうためか、教室内をゆっくりと一回りされた先生は、みんなの答案の出来具合を覗いて歩きながら、ポツリとおっしゃった。

「北部の道路名を、正しく書けていない人が多いですねえ…」

 呼応するかのように、何人かの児童が大袈裟に溜め息をついてみせた。そして次の瞬間、教室内に笑いが起きた。小学3年生の教室である。
 先生は、黒板のそばにある自分の席(教壇)に戻りながら、困ったようにおっしゃった。

「(その道路は) 遠足のときに、通ったやんか…」

 私の頭の中には、緑の山々に囲まれた北部の風景がぐるぐると思い返されるのみであった。



(終わり)