ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

韓国内の映画 Daumの人気順位 と 週末の興行成績[11月1日(金)~3日(日)]

2013-11-05 19:57:37 | 韓国内の映画の人気ランク&興行成績
 ヒューマントラストシネマ渋谷で「人類滅亡計画書」(原題「人類滅亡報告書」)鑑賞。ちょっと奇妙な味のSF3作のオムニバス。最初の<素敵な新世界>はゴミをきちんと分別しなかったために蔓延した怪ウイルスのためにソウルはゾンビたちの街に・・・。やはり今年公開の長編「風邪」を連想します。(観てないけど。) ホラー映画も現実社会をそのまま反映しているというわけです。2つ目の<天上の被造物>が一番印象に残りましたが、これは自ら悟りを得て説法をし、僧侶たちの尊崇の対象にまでなったロボットの話。その製造会社URは僧侶たちの反対を聞き入れず解体を決めるが、解体直前にハプニングが・・・という話。3つ目<ハッピーバースデー>は、女の子がネットで注文したビリヤードの玉がなんと2年後地球に向かって飛んでくる、という星新一を思わせるような話。チョット登場のぺ・ドゥナ、ここでは走ってなかったな。

 先週書いた横浜のブリリアショートショートシアターでの<K-Movie Festival>の1つ「フィスト・オブ・レジェンド」(原題「伝説の拳」)はけっこう楽しめました。観客がヌルボを含め3人だけだったのは残念。
 しかし、この映画でも最近観た「ミナ文房具店」でもいじめに遭っている女の子が出てくるのです。他にも何かあったような・・・。ホントにそんなに「一般的」な状況になってしまってるのかと思いつつ、<DAUM映画>で後述のスペイン・アニメ「ホワイトゴリラ」の説明文を読むと「大韓民国小学生10人に1人がいじめの経験!」と書かれていました。統計庁が小学生3379人を対象に実施した調査によると、「最近1年間学校でいじめを受けた児童は9.7%に上る」とのこと。近年はSNSによるいじめも増えているそうです。
 ・・・ということで、映画に描かれているいじめもやはり現実の反映と見てよさそうです。

 11月1日に大鐘賞の結果が発表されました。詳しくはいつもの<海から始まる>参照ですが、主なところは以下の通り。
 最優秀作品賞=「観相」、監督賞=ハン•ジェリム(「観相」、主演男優賞=リュ•スンニョン(「7番房の奇跡」)、同左=ソン•ガンホ(「観相」)、主演女優賞=オム•ジョンファ(「モンタージュ」)、助演男優賞=チョ・ジョンソク(「観相」)、助演女優賞=チャン•ヨンナム(「私のオオカミ少年」)、新人男優賞=キム•スヒョン(「隠密に偉大に」)、新人女優賞=ソ・ウナ(「ふるまい」)、人気賞=イ•ジョンジェ(「観相」)、映画発展功労賞=ファン・ジョンスン
 ・・・ということで、今回は「観相」がとくに目立っていますね。
 ソン・ガンホは「JSA」(2001)、「殺人の追憶」(2003)に続いて3度目の主演男優賞受賞です。キム•スヒョン君、やったねー!
 映画発展功労賞のファン・ジョンスンは1940年代から活躍している女優で、過去数多くの受賞経歴があります。詳しくは→コチラ参照。「浜辺の村」(1965)は私ヌルボも観たな。(それにしても、<輝国山人の韓国映画>はすごいサイトです。)

           ★★★ Daumの人気順位(11月5日現在上映中映画) ★★★

【ネチズンによる順位】

①フェイマス・ファイブ:キリン島の秘密  9.4(24)
②ニュー・シネマ・パラダイス  9.4(487)
③道の上で(韓国)  9.3(64)
④コアラ(韓国)  9.2(34)
⑤アー・ユー・レディ?(韓国)  9.1(20)
⑥キャプテン・フィリップス  9.0(242)
⑦ロデンシア:魔法王国の伝説  8.9(25)
⑧ブルー・ジャスミン  8.9(70)
⑨願い(韓国)  8.8(745)
⑩ノーブレッシング(韓国)  8.6(402)

 新登場は⑩「ノーブレッシング」だけです。詳しくは後述。
 南北統一についてのキリスト教系ドキュメンタリー映画⑤「アー・ユー・レディ?」については10月1日の記事で紹介しました。

【専門家による順位】

①蜂蜜  8.5(2)
②ゼロ・グラビティ  8.2(5)
③ヒミズ(日本)  8.0(2)
④恋するリベラーチェ  7.6(3)
⑤ブルー・ジャスミン  7.5(6)
⑥悲しみを聴く石  7.5(2)
⑦ブエノスアイレス恋愛事情  7.3(3)
⑦ベンダ・ビリリ!~もう一つのキンシャサの奇跡  7.3(3)
⑦ミスター・ノーバディ  7.3(3)
⑩25年目の弦楽四重奏  7.2(4)
⑩父の秘密  7.2(4)
⑩グランド・マスター  7.2(4)

 今回の初登場は③「ヒミズ」だけです。もちろんあの園子温監督作品。韓国題は「두더지(モグラ)」です。

         ★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績[11月1日(金)~3日(日)] ★★★

         1・2位はハリウッド大作が占める

【全体】

順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・・・・週末観客動員数・・・・累計観客動員数・・・・累積収入・・・上映館数
1(新)・・マイティ・ソー/ダーク・ワールド・・10/30 ・・・・・・・・・827,612 ・・・・・・・1,053,066・・・・・・・・8,081・・・・・・・・733
2(2)・・ゼロ・グラビティ ・・・・・・・・・・・・・10/17 ・・・・・・・・・・・・・341,023 ・・・・・・・2,316,167・・・・・・・22,153・・・・・・・・439
3(1)・・共犯(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・10/24・・・・・・・・・・・・・・306,895 ・・・・・・・1,339,304・・・・・・・・9,446・・・・・・・・448
4(13)・・ノー・ブレッシング(韓国) ・・・・10/30 ・・・・・・・・・・・・・190,801 ・・・・・・・・・285,058・・・・・・・・1,935・・・・・・・・584
5(新)・・膺懲者(韓国) ・・・・・・・・・・・・・・10/30・・・・・・・・・・・・・・98,415・・・・・・・・・・147,971・・・・・・・・1,080・・・・・・・・305
6(4)・・願い(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・・10/02・・・・・・・・・・・・・・56,633・・・・・・・・2,647,725・・・・・・・18,130・・・・・・・・251
7(3)・・ファイ 怪物を呑み込んだ子(韓国)・・10/09・・・・・・・・・48,251・・・・・・・・2,370,612・・・・・・・17,525・・・・・・・・199
8(新)・・ホワイトゴリラ・・・・・・・・・・・・・・10/31・・・・・・・・・・・・・・28,815・・・・・・・・・・・30,977・・・・・・・・・・207・・・・・・・・182
9(5)・・キャプテン・フィリップス・・・・・・・10/23・・・・・・・・・・・・・・27,267・・・・・・・・・・219,081・・・・・・・・1,525・・・・・・・・149
10(6)・・トップスター(韓国)・・・・・・・・・・10/24・・・・・・・・・・・・・・・9,278 ・・・・・・・・・・164,215・・・・・・・・1,125・・・・・・・・112
       ※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。

 新登場は1・4・5・8位の4作品です。
 1位「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」は、「アベンジャーズ」でも活躍した“神の子“ソーの新たな戦いを描く新作。クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマンら前作のキャストが再集結。韓国題が「토르: 다크 월드(トル:ダークウォルドゥ)」なのは、原題の「THOR」の発音が韓国では「ソー」ではなく「トル」になるため。日本公開は来年2月1日です。
 4位「ノー・ブレッシング」は人気の若手俳優たちが出演している水泳映画。「少女時代」のユリがスクリーンデビューだって!? ふうん。ウォンイル(ソ・イングク)とウサン(イ・ジョンソク)のライバル同士が、新記録達成と国家代表をめざす物語です。幼い頃から水泳の有望株だったウォンイルは、突然水泳をやめて行方をくらまし、夢も目的もなく生きていたが、しかしある日国内最高の名門体育学校に進学することになります。そこで幼い時ライバルだったウサンと再会します。ウサンは水泳界の第一人者にまで成長したものの、予期しなかった事件によって国家代表から外れ、同じ体育学校に入ったのです。違う道をだどって再び同じスタートラインについて2人ですが、なぜかウサンとの勝負を避けるウォンイル。そしてウサンは・・・。で、「少女時代」のユリが演じるのはミュージシャン志望も女の子ジョンウン。ウォンイルとウサンの幼なじみで「2人の間でロマンスをはぐくむキャラクター」、・・・って、どうみても三角関係の要でしょう、これは。原題は「노브레싱」です。
 <NAVER漫画>「国立自由経済高校セシル高」の漫画家タパリ(オ・へミン)が本作品公開に先立ってスペシャルウェブトゥーンがネットで公開されました。(下画像)
           
      【ウェブトゥーンが原作かと一瞬思ってしまいましたが、そうではありません。】

 5位「膺懲者」は韓国のアクション。原題「응징자」の直訳の「膺懲者」よりも「復讐者」の方がよさそうですが・・・。高校時代、ジュンソク(チュ・サンウク)はチャンシク(ヤン・ドングン)のいじめに苦しめられ、そのためにジュンソクの彼女が自殺までしてしまう。そんな2人が20年後に再会した時、チャンシクは父親の七光りで大企業に勤めながら結婚の準備中。一方ジュンソクは良い大学を卒業したものの就職もできずバイト生活。過去を忘れることができないジュンソクはチャンシクに過去の記憶をよみがえらせるため復讐を企てる・・・。ポスターの文言が「忘れられない記憶 vs 思い出したくない記憶」。私ヌルボの場合は「思い出せない記憶」なんて、おもしろくもなんともないな。
 8位「ホワイトゴリラ」はスペインのアニメ。世界でただ1匹のホワイトゴリラのスノーは特別な外貌のため仲間のゴリラたちから爪弾きにされます。ふつうの黒いゴリラになって友だちを作りたいと願うスノーはレッドパンダのサムおじさんと一緒に神秘な力を持つ奇跡の魔女を探しに旅立ちますが、ホワイトゴリラを狙う悪党ルークがスノーを狙って追いかけてきます。はたしてスノーは危機を逃れて願いをかなえられるか・・・? この作品は1966年にバルセロナ動物園にいたホワイトゴリラの話が素材。アルビノによる白い毛と白い皮膚、そして青い目を持った白ゴリラは人気を集めたそうですが、同種の動物たちからは実際にいじめにあったりもしたそうです。韓国題は「화이트 고릴라」。日本公開は未定のようです。

【多様性映画】

順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・・・週末観客動員数・・・・累計観客動員数・・・・累積収入・・・上映館数
1(1)・・ある視線(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・10/24・・・・・・・・・・・・5,508・・・・・・・・・・・・・・・14,960 ・・・・・・・・・108・・・・・・・・・・45
2(2)・・ミスター・ノーバディ ・・・・・・・・・・・・・10/24・・・・・・・・・・・・2,662・・・・・・・・・・・・・・・・8,822・・・・・・・・・・・65・・・・・・・・・・20
3(3)・・ブルー・ジャスミン・・・・・・・・・・・・・・・・9/25・・・・・・・・・・・・1,974・・・・・・・・・・・・・・130,195 ・・・・・・・・・957・・・・・・・・・・・9
4(4)・・ロデンシア:魔法王国の伝説 ・・・・・10/02・・・・・・・・・・・・1,116・・・・・・・・・・・・・・・97,165 ・・・・・・・・・626・・・・・・・・・・・8
5(14)・・ノラ・ノ(韓国) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・10/31・・・・・・・・・・・・・・671・・・・・・・・・・・・・・・・1,543 ・・・・・・・・・・11・・・・・・・・・・22

 新登場は5位「ノラ・ノ」だけです。ノラ・ノは今年85歳になる韓国最初のファッションデザイナー。最初のアパレルデザイナーで最初の海外進出デザイナーでもあります。1963年韓国で初めてファッションショーを開催した彼女は今も現役で、デザイナー生活60年になります。ある日訪ねてきたスタイリストとともに、過去の衣装を復元し、自身の人生とその時代をふり返りるという内容のドキュメンタリーです。今年5月ソウル国際女性映画祭でこの作品を観たSARUさんのツイートによると、「韓国女性の普段の服装をチマチョゴリから洋装に変えたこと、韓国女性服の既製服のサイズ(何号とか)を決めて行ったこと、韓国にミニを持ち込んだなどなど、戦後の女性の歴史、それは女性が独立した存在として世に出て生き始めることを服装からもたらした歴史的存在」とのことです。原題は「노라노」です。
 ※<innolife>のノラ・ノさん紹介記事は→コチラ
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脱北者女性初の博士イ・エラン教授の本「北韓食客」③北朝鮮ならではのキムジャン(キムチ漬け)の大変さ

2013-11-03 18:54:12 | 韓国料理・食べ物飲み物関係
 <脱北者女性初の博士イ・エラン教授の本「北韓食客」①ハルモニ骨ヘジャングクという店名に驚いた話>
 <脱北者女性初の博士イ・エラン教授の本「北韓食客」②奥さんの料理の腕が夫の出世に直結する北朝鮮>
の続きです。

 いやー、この「北韓食客」という本はおもしろいわ~! 紹介したいネタがいっぱいなので、あと数回続きます。

 11月になりました。韓国では11~12月はキムジャン(김장)つまり冬越し用にキムチを大量に漬け込む季節です。

 <ソウルナビ>の記事(→コチラ)によると、そのベストシーズンは、ソウルでは11月末~12月初め、釜山では12月の中旬だそうです。

 「北韓食客」によれば北朝鮮のキムジャンは10~11月。その中でも、イ・エランさんが10歳の時に一家が「成分が悪い」という理由で平壌から追放され、移り住んだ両江道(ヤンガンド)の三水甲山という白頭山に近い最北部地方では10月初めからキムジャンが始まります。
 そして作ったキムチは翌年4~5月頃まで主菜となるのです。三水甲山のように6~7月でもホウレンソウのような野菜が取れないところだと7月までキムチが必要とされるとのこと。つまり年に10ヵ月はキムチに頼った食生活なんですね。

 韓国では、以前は家族たちが大勢故郷の実家に集まって大々的にキムチを漬ける習慣だったのが、近年ではかなり状況が変わってきたようです。伝統的な家族の形も変わり、またスーパーに行けばいろんな食料品を買うことができ、キムチ自体も買えばOKという時代ですから。

 一方、北朝鮮では10~11月は「キムジャン戦闘期間」と戦闘に例えられるほどで、国としても各家庭としても大変な時期です。
 イ・エランさんが脱北したのは1997年なので、その後配給制が有名無実化して市場が発達して状況は変わりつつあるとはいえ、基本的な問題は今も続いているようです。

 本書から、北朝鮮のキムジャンについての具体的な状況と問題点を整理してみます。

①ちゃんとした職場がないと白菜を用意してキムジャンを行うことができない。
 キム・エランさんが北朝鮮にいた、配給制がまだ維持されていた頃は、職場がキムジャン供給の基本単位だったようで、世帯主が大学生であったり失業者の場合はキムジャンを放棄することも多かったとか。
 キムジャンを放棄せざるをえなかった人はどうするか? キムチ泥棒に入られたという騒ぎがよくあるそうです。キムチを入れた穴蔵に鍵をかけておいても盗られるので倉庫内に入れておいても安全とはいえないそうです。
 また、キムチを容れる甕も不足>していて高価なため買えない人もいて、キムチ甕泥棒までいるので、甕の管理もおろそかにしてはならないとか・・・。

②白菜等の分量がその家の財力を示す。
 ふだんはアリ1匹も通らないような北朝鮮の道も、キムジャンの期間には白菜を高く積んだ車が数珠つなぎになるそうです。
 そうして各家庭に運び込まれる白菜の品質や分量、時期を見ると、その家の夫や妻の「実力(세도)」がわかり、その職業を把握することができ、個人の能力を評価することもできます。トウガラシや桶についても同様。人々の羨望の対象となるような家もあります。
 さて、そのキムジャンに必要な量というのがハンパではありません。上記の両江道のような地域の場合、5人家族基準で白菜300㎏、大根100㎏! 余力のある家では1トンにもなるとか!!

③すべての職場が仕事を中断し、「野菜戦闘」によって畑に出て白菜や大根を収穫
 「キムジャン戦闘」期間は、企業所・工場ごとに割り当てられた畑に出て白菜や大根を収穫し、運搬します。そして家族数にしたがってキムチの材料が配給されます。この「キムジャン戦闘」の動員に参加しないと、量も少なく質もよくない物しかもらえません。
 収穫からキムチを漬け終わるまですべて自分たちでやるとは・・・。いろんな分野で分業化がすすんでいないことがうかがわれます。

④アパートの上層階の場合はとくに大変・・・断水と停電が日常化しているため
 ホントに大変だろうな~と私ヌルボが思ったのがコレ。
 遠くから撮影した平壌の街を見ると高層アパートが立ち並んでいます。しかし北朝鮮では水道の水と照明用の電気は「名節供給用」という言葉さえあるほどで、元日や指導者の誕生日くらいしか満足に供給されず、ふだんの日は限られた時間しか送られません。
 ・・・ということは、エレベーターも使えない!ということです。外目には良く見えるアパート生活も、むしろ苦労が多いようです。
 イ・エランさん一家が平壌にいた時、親戚が30階建アパートの25階に住んでいたそうです。キムチの材料数百㎏がアパートの前に届いても、それを背負って上まで何度も往復して運ばなければならないとは・・・。
 そればかりではありません。白菜を洗う水も大量に必要なので下の井戸まで汲みに行かなければならず、おまけにその行列に長時間並ばなければならず、時間を節約するためにできるだけたくさんの容器をもって汲みいれるのだとは・・・。白菜等を切った後の野菜屑も下のゴミ捨て場まで持って行かなければならないし・・・。
 読むだけでも、それも他人事ながらも気が滅入るような話です。

 上記のような北朝鮮のキムジャン事情を考えると、暖かい家で、水道の水がジャージャー出てくる韓国でのキムチ漬けのようすは「まるで宮殿のようだ」とイ・エランさんは書いています。「さもありなん」と思うばかりです。

[11月5日の追記]
 ハーチャンさんのコメントを見て、蓮池薫「半島へ、ふたたび」を読んでみました。たしかに北朝鮮でのキムチ作りのことがとても詳しく書かれています。
 蓮池さん一家(4人)の場合、白菜は1人当たり300㎏で計1200㎏、大根は1人当たり50㎏で計200㎏。で、総計1.4トンもの野菜が一度に運ばれてきたとか・・・。
 上述の「北韓食客」の内容と照らし合わせてみると、分量的にはかなり恵まれた家族だったといえそうです。
 野菜の分量以外にも「半島へ、ふたたび」にはキムチ作りの作り方が非常に具体的に書かれています。10㎏支給されるトウガラシを機械で製粉してもらうと10%の手間賃を取られるので自分で搗いてみた時の悪戦苦闘や、甕のヒビの有無を丹念に点検すること等も・・・。また30㎏入りの塩袋1つが供給される等々、細かな数字まで本当によく記憶しているのは驚くほどです。
 キムチ以外では納豆作りにも挑戦した話とか、いろいろ。やはりこの本もとても中身の濃い本ですね。
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脱北者女性初の博士イ・エラン教授の本「北韓食客」②奥さんの料理の腕が夫の出世に直結する北朝鮮

2013-11-01 23:59:14 | 韓国料理・食べ物飲み物関係
 2つ前の記事で紹介したように、脱北者女性イ・エランさんの著書「北韓食客」は、主に北朝鮮の食文化について書きながらも、それを通じて北朝鮮の社会や、人々の生活の実態を具体的に叙述しています。

 今回はその1例についてですが、「奥さんの料理の腕が夫の出世に直結する」という表題から見当がつくでしょうか?
 「風が吹けば桶屋がもうかる」ほど長くはならないのですが・・・。

 前提として、北朝鮮では外食文化が発達していないという事情があります。食堂はもっぱら出張や旅行をしている人のためのものです。
 したがって、韓国や日本のように家族で外食を楽しんだり、忙しい時や面倒くさい時等に出前を頼んだりということはありません。(一部の有名食堂で食事をする場合の手続きはすごく大変かつ高価かつ何日も待たなければなりませんが、それについてはまたいずれ。)
 また、カルククスのようなごくふつうの料理は家庭で作るものなので、韓国に来たイ・エランさんは、多くのカルククスの店が多様な具の入ったカルククスを売っているのを見て驚いたそうです。

 さて、北朝鮮は社会の隅々まで賄賂がふつうに横行している社会であることはよく知られています。脱北に際しても、財力のある人は国境警備隊の隊長に裏金を渡したところ、体長は部下たちに「今日はみんな休め」と命令を下したという話を何かで読んだことがありました。
 韓国も賄賂関係のニュースはうんざりするほどよく見かけますが、北朝鮮ではそれが常態化しているため問題にさえならないのではないでしょうか?

 話を本筋に戻します。

 北朝鮮で、出世に必要とされるのは、まず出身成分が良いこと。しかし成分だけ良くてもダメ。適当にお世辞を振りまいていい人脈を持っている人と関係を維持することが必要です。
 そのためにとくに効果的なのはつけとどけ(뇌물)と接待。それらのことを北朝鮮では<事業(사업)>とよぶそうです。その<事業>の中でも欠かせないものが食べ物と、とりわけ酒。そのため酒工場やビール工場等で製品販売関係の仕事をしている人にはかなりのパワーがあるとか。イ・エランさんはこのような現象を北朝鮮の<フード・パワー>、<アルコール・パワー>とよんでいます。
 ※しかし、これって会社の製品を自分の処世のため流用しているってことで、ふつうの国なら当然犯罪ですよね。本書の別の部分には、家族の1人が食堂で働いていると家族は皆タダで食べられるとも・・・。

 続き。出世に必要な<接待>についても、上述のように街に食堂が少ないため自宅に招いて食事接待することになります。仕事上の会議等も同様だそうで、北朝鮮社会で家に人を呼んで食事でもてなすことは非常に重要なことのようです。公私ともに・・・って、その境界自体がハッキリしないような社会のようですけどね。

 ということで、家庭での食事接待となるとそこで大きく物をいうのが奥さんの料理の腕前というわけです。とくに酒の肴(술안주)。韓国同様北朝鮮の男性も酒好きで、酒の肴が上手に作れるかが奥さんの腕の見せどころ。ただ北朝鮮では、奥さんは、夫が酒に酔ってうっかり政治向きの失言をしないように注意することが肝要。ヘタすると収容所送りになってしまいます。

 この奥さんの料理の腕がいかに夫の出世や一家の暮らし向きを左右するか、イ・エランさんは2組の対照的な夫婦の例をあげています。

 まず中卒で特別な技術も持っていないAさん。鉄道機関士として働いていたが、機関車の火災事故のためひどい火傷を負い、治療を受けたものの、手がよく使えないようになってしまった。その奥さんは彼と同じ中学校を卒業して、幹部用の65号供給所等の店で販売員として長く勤務しただが、彼女は料理をとても美味しく作り、よく人々を招いて接待したりもした。とくに酒の肴が得意で、夫の友人たちを呼んで酒と料理でもてなした。 

 一方、Bさんは金日成総合大学の政治経済学科で法律を専攻し、道の検察所で予審署長まで務めたこともある人。学生時代には「百科事典」というあだ名がつくほどのインテリだ。仕事も徹底してきちんとやる実務型の人だった。彼の夫人は金亨稷(キム・ヒョンジク)師範大学(平壌第一師範大学)を卒業し、大学教授と行政委員会教育課で視学(奨学官)という相当な仕事をしてきた人だ。ところが、この女性は家事は全然ダメで、料理はなおのこと苦手だった。それでこの家庭では食事に招待することはできるはずもなく、やるとしても料理が不味くて誰も行こうとしなかった。

 ※韓国では、このような地位にある奥様(사모님.サモニム)は高収入を得て、家事等はお手伝いさんに任せるのでしょうが、北朝鮮ではそのような「労働の搾取」は否定されるのです。

 さて、このAさんとBさんの暮らし向きはとみると、「比較にならない」のです。圧倒的にAさんの方が上なのです!
 障害を負ったAさんの稼ぎはたいしたものではないとしても、奥さんは良い所で働き、イ・エランさんが住んでいたその都市(恵山?)で5本の指に入るほどの財産家!だったといいます。そしてその家の娘たちも外貨商店の販売員や高級洋服店の裁断師、芸術大学のアコーディオン講師といった良い職を得ることができました。婿たちも金日成総合大学を出て市の党職に就き嘱望されているとのことです。

 ところがBさんはというと、最高の大学を卒業しながらも権力の後ろ盾がなく、いつも貧しく腹をすかせている生活。彼ら夫婦に対して、人々は若干の尊敬心は抱きつつも、かわいそうな人たちという取扱いをするばかりだったそうです。子どもたちも両親に似て勉強はよくできたが、家が貧しいため結婚もうまくいかなかったとか。

 ・・・こうしたことを読んだだけでも、北朝鮮と韓国が分断以降いかに大きく違ってしまったかがわかります。
 今後南北統一が実現したとしても、ここまで違ってしまった生活様式や物の考え方等々のミゾを埋めるのはとても大変なことのように思われます。
 韓国に来た脱北者たちも、まさにそんな困難に直面しているということです。

 興味深いことがいろいろ書かれている本ですが、気が重くなる本でもあります。
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