ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国内の映画の興行成績 [4月22日(金)~4月24日(日)]と人気順位 ►「空気殺人」はあの事件を追及する社会ドラマ ►ホン・サンス監督の新作、43年前ソ連内の連続殺人実録、中国映画「熱帯往時」等々

2022-04-30 09:51:54 | 韓国内の映画の人気ランク&興行成績
▶今回の記事中で目に留まった韓国映画は「空気殺人」です。
 タイトルを見ると何か殺人物のエンタメか?と思いますがさにあらず(←死語か?)、韓国で問題化した<加湿器殺菌剤事件>をモチーフとした社会ドラマです。本作のストーリー等は下の紹介記事参照。この事件について概略を記します。日本でも報道されたので記憶に残っている人も多いのではないでしょうか?
 加湿器殺菌剤が発売されたのは1994年。「世界の最初」、「韓国だけ」のふれ込みで売り出され、その後さまざまな企業も後を追って2011年までに約1千万個が販売されました。その背景には韓国独自の床暖房であるオンドル文化があります。室内が乾燥するため加湿器を使う家がほとんど。加湿器の霧で遊ぶ子供が多いので、親は子どもの健康のため加湿器用殺菌剤を購入したのです。そんなわけで家庭の必需品ともされてきた商品でした。ところがその後異変が現れます。家族は咳をするようになり、容体が悪化した子供を病院で検査したところ間質性肺炎と診断され、恐ろしい健康被害が判明しました。しかし原因が加湿器用殺菌剤とはわかりませんでした。夏には患者は現れず、冬になるとまた増え始める・・・、すぐわかりそうなものなのに、と思うのは結末を知っているから言えるのでしょうか? 国が原因究明に動き出したのは2011年4月。全国の患者の家を調査し、ようやく原因をつきとめます。
 ところがその後11年経った今でも、製品の生産に関与した関係者や企業はほとんど無罪あるいは軽い処罰にとどまり、これを傍観した政府も被害者が納得するほどの謝罪や補償は行っていません。その間にも加害者のない死亡者は増え続け、累計1,742人にのぼるとか・・・。
 この事件が<家の中のセウォル号事件>と呼ばれているのは、人体に有害な物質を企業がしっかり調査せず販売したという安全を無視した人災であり、発覚した後も証拠を隠蔽したとの疑惑を持たれ、その裏にはずさんな企業体質があったからです。
 このような中、この製品の危険性について本作の製作陣は新たにキャラクターを創作して当時の状況を描きつつ「国民的告発を提起しようという意図で取り組みました」と記しています。
      
【 「空気殺人」のポスター(左)と、被害報告のあった加湿器殺菌剤製品。】

▶その他にも今回の記事中には見出しにも書いたように興味深い作品が盛り沢山! しかし作品自体よりも作品で描かれる社会に対する興味・関心と言った方がいいかもしれません。今回に限ったことでもないですが・・・。逆に言えば、近年ホントに感動的な韓国映画を観てないという思いがあります。それもこの10年くらい・・・

    ★★★ NAVERの人気順位(4月27日(水)現在上映中映画) ★★★

     【ネチズンによる順位】
 ※[記者・評論家による順位]とも①等の右の( )は前週の順位。評点の後の( )は採点者数。初公開から1年以内の作品が対象。
  「初登場」とは、本ブログでの初登場の意。

①(1) 役割たち(韓国)  9.96(28)
②(2) お母さんと私(韓国)  9.93(15)
③(3) ゴースティング・グロリア  9.88(16)
④(4) マリムさんをよろしく(韓国)  9.51(88)
⑤(-) しなやかに(韓国)  9.50(16)
⑥(-) SING/シング:ネクストステージ  9.40(2,651)
⑦(新) SEVENTEEN POWER OF LOVE(韓国)  9.36(55)
⑧(6) 劇場版 呪術廻戦 0(日本)  9.25(1,428)
⑨(9) コーダ あいのうた  9.15(913)
⑩(10) 幸せの答え合わせ  9.03(104)

 ⑦「SEVENTEEN POWER OF LOVE」が新登場ですが、この作品については後述します。

     【記者・評論家による順位】

①(1) ドライブ・マイ・カー(日本)  8.44(9)
②(新) 小説家の映画(韓国)  8.00(3)
③(3) アフター・ラヴ  7.60(5)
④(4) ベルファスト  7.50(10)
⑤(5) リコリス・ピザ  7.43(7)
⑤(5) パラレル・マザーズ  7.43(7)
⑦(7) 8月のエバ  7.40(5)
⑧(8) スペンサー ダイアナの決意  7.38(8)
⑨(新) 熱帯往時  7.33(3)
⑩(-) スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム  7.09(11)

 ②と⑨の2作品が新登場です。
 ②「小説家の映画」は韓国のドラマ。ホン・サンス監督の新作で、今年2月<第72回ベルリン国際映画祭>で銀熊賞(審査員大賞)を受賞した作品です。
 女性小説家ジュニ(イ・ヘヨン)は行方がわからなくなった後輩が営む本屋を遠路訪ねて行きます。そして1人タワーに昇って映画監督夫婦に会い、公園を散歩中に女優ギルス(キム・ミニ)と知り合うことに。女優ギリスに「あなたと映画を撮りたい」と説得します。2人は軽食店で食事をし、再び後輩の本屋に行って遅くまで酒を飲み、ギリスは酔って寝入ってしまいます・・・、といったストーリーはホン・サンス作品の場合どうでもいいかも(笑)。原題は「소설가의 영화」です。
 ⑨「熱帯往時」は中国の犯罪&サスペンス。物語の舞台は1997年の停電で暗闇となった真夏の広州です。堪えがたいほど蒸し暑かった熱帯夜、ワン・シェミン[王学明](エディ・ポン)は車を運転中1人の男とぶつかってしまいましたが、そのまま現場から去ってしまいます。彼は自分が犯したことについて自白しようと思うものの、なかなか踏み切れません。しかし彼は罪責感を抱いて、死んだ男の妻リャン・マ[梁媽](シルヴィア・チャン)に自分のことを明らかにしないまま接近するようになり、2人の間の距離は次第に狭まります。一方、チェン・エル[陳耳]刑事(ワン・イエンホイ)はリャン・マの夫の殺人事件について徐々に真相に迫っていきますが・・・。この事件に関わる3人をめぐる(なんと!)約20年を追うサスペンスです。韓国題は「열대왕사」。日本公開は今年秋とのことです。※この作品の設定、最近観たような・・・としばし考えたら「白い○の△△△△」だった。

  ★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績4月22日(金)~4月24日(日) ★★★
          新登場の韓国映画3作品がランクイン

【全体】
順位・・・・題名 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(1)・・ファンタスティック・・・・・・・・4/13 ・・・・186,876 ・・・・・・・769,058 ・・・・・・8,148・・・・1,376
       ・ビーストとダンブルドア
2(25)・・空気殺人(韓国)・・・・・・・・・・・4/22 ・・・・・64,843・・・・・・・・・70,183 ・・・・・・・・685・・・・・・756
3(42)・・アンカー(韓国)・・・・・・・・・・・4/20 ・・・・・61,466・・・・・・・・103,073 ・・・・・・1,035・・・・・・881
4(20)・・ザ・ロストシティ・・・・・・・・・・4/22 ・・・・・39,697・・・・・・・・・64,223 ・・・・・・・・618・・・・・・726
5(2)・・ソニック・ザ・ムービー ・・・・・・4/06 ・・・・・37,423 ・・・・・・・255,011 ・・・・・・2,325・・・・・・590
       /ソニック VS ナックルズ
6(新)・・SEVENTEEN・・・・・・・・・・・・・・4/20 ・・・・・13,646・・・・・・・・・20,225 ・・・・・・・・404・・・・・・151
       POWER OF LOVE:THE MOVIE(韓国)
7(再)・・劇場版「鬼滅の刃」・・・・2021/1/27 ・・・・・12,752・・・・・・2,171,626・・・・・・20,849 ・・・・・299
       無限列車編(日本)
8(再)・・恋する惑星 ・・・・・・・・・・1995/4/20 ・・・・・・5,058 ・・・・・・・・・82,789 ・・・・・・・・780・・・・・・102
9(6)・・劇場版 呪術廻戦 0(日本)・・・・・2/17・・・・・・・4,391・・・・・・・・605,834 ・・・・・・6,017・・・・・・145
10(新)・・バッドガイズ ・・・・・・・・・・・・・5/04・・・・・・・3,914 ・・・・・・・・・・3,914・・・・・・・・・・38・・・・・・・33
     ※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。

 2・3・4・6・10位の5作品が新登場です。
 2位「空気殺人」は韓国のドラマ。冒頭に記したように<加湿器殺菌剤事件>をモチーフとした作品で、作家ソ・ジェウォン(소재원)の小説「菌・加湿器殺菌剤と語られないこと(균-가습기 살균제와 말해지지 않는 것)」(2016)が原作です。
 物語の主人公は医師のチョン・テフン(キム・サンギョン)。エリートコースを歩んで来て医療センターの課長職に就いています。同い年の妻ハン・ギルジュ(ソ・ヨンヒ)との間に6歳の息子ミヌがいます。ところが原因不明の肺疾患で妻を失い、息子さえ危ない状況に立たされます。ハン・ギルジュの妹ハン・ヨンジュ(イ・ソンビン)は両親ともいない中で面倒をみてくれた姉を失って事件に飛び込みます。大検察庁の検事ですが、姉の死亡とミヌの肺疾患が加湿器殺菌剤のためであることを知って彼らのために天職だと思っていた検事から弁護士に転身します。そして企業の利益のためなら手段を選ばない加湿器殺菌剤メーカー、オトゥのチーム長のソ・ウシク(ユン・ギョンホ)等と対決していくことになります・・・。原題は「공기살인」です。
 3位「アンカー」は韓国のスリラー。タイトルの<アンカー(앵커)>は日本ではふつう(ニュース)キャスターと言っているので<キャスター>にしてもいいのですが、一応そのままにしておきます。
 「私の死がチョン・セラキャスターの口を通して報道されればとてもうれしいです。」 生放送5分前、放送局の看板キャスターのセラ(チョン・ウヒ)のところに「自分は殺されるだろう」という死を予告する電話がかかってきます。いたずら電話として片付けるには気が重いセラでしたが、真のキャスターになるチャンスだという母ソジョン(イ・ヘヨン)の言葉にしたがって電話の主のミソ(パク・セヒョン)の家に向かったところ、ミソと彼女の娘の死体を発見することになります。その日以降、セラの目の前に死んだミソの姿が何度も現れ始めます。再び訪れた事件現場でセラはミソの主治医だった精神科医イノ(シン・ハギュン)に出会い、彼に対するセラの疑念が深まっていきます。そして彼女が一歩ずつ秘密に近づくほど、より大きな恐怖に遭遇することに・・・。原題は「앵커」です。
 4位「ザ・ロストシティ」はアメリカのアクションアドベンチャー&コメディ。伝説の古代都市にあるという宝物を手に入れるために財閥家の青年フェアファックス(ダニエル・ラドクリフ)は唯一の手がかりを知っていると思われるベストセラー作家のロレッタ(サンドラ・ブロック)の拉致を敢行します。一方やむを得ないビジネス関係でロレッタの新作宣伝ツアーに同行していたモデルのアラン(チャニング・テイタム)は消えた彼女を探すため謎のパートナーのジャック(ブラッド・ピット)と共に島へとたどり着いてロレッタを探し出し、島から脱出しようとしますが、予測不能のハプニングが次々に起こってはたしてどうなることやら・・・。韓国題は「로스트 시티」。日本公開は6月24日です。
 6位「SEVENTEEN POWER OF LOVE:THE MOVIE」は韓国のドキュメンタリー。13人組の男性アイドルグループSEVENTEENが2021年に催したオンラインコンサート<POWER OF LOVE>の感動がスクリーンで再現されました。5連続ミリオンセラー、ビルボード200で2週連続チャートイン、オリコンチャートでもトップの座をつかむ等、新しい歴史を書き続ける世界のアーティストSEVENTEENの最初の映画です。ふんだんなパフォーマンスから、13人のメンバーたちが本心を語るインタビュー、過去と現在と共に未来を込めた多彩なコメントまで・・・。原題は「세븐틴 파워 오브 러브 : 더 무비」です。
 10位「バッドガイズ」はアメリカ・ドリームワークス初のの犯罪娯楽アクション3Dアニメ。
 どれ、ちょっと善いことをしてみようか? 作戦計画から金庫解除、ハッキング、アクション、偽装まで。バッドガイズ一味は冷静なオオカミのミスター・ウルフが率いる悪名高い犯罪動物集団。完璧なチームプレイを繰り広げる彼らでしたが一瞬の失敗で逮捕されます。しかし、悪いやつらも善良になれるというマーマレード博士の主張により彼らは<正しい生涯プロジェクト>に投入され、もう1度自由の体に戻るために生まれて初めて正しい生活に挑戦することになりますが・・・。韓国題は「배드 가이즈」。日本公開は年内とのことです。
 なお8位「恋する惑星」は、ウォン・カーウァイ監督による1994年の香港映画の佳作の再上映。韓国題は原題の「重慶森林」をそのまま韓国風に読んで「중경삼림」です。

【独立・芸術映画】
順位 ・・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(再)・・恋する惑星 ・・・・・・・・・・・・1995/4/20・・・・・・・・・5,058・・・・・・・・82,789 ・・・・・・・・780 ・・・・・102
2(新)・・小説家の映画(韓国) ・・・・・・・・・・4/21・・・・・・・・・2,244・・・・・・・・・3,610・・・・・・・・・・35・・・・・・・65
3(12)・・スリー: まだ終わっていない(カザフスタン・韓国)
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4/21・・・・・・・・・2,139・・・・・・・・・4,333・・・・・・・・・・34・・・・・・・66
4(新)・・熱帯往時・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4/21・・・・・・・・・・・913・・・・・・・・・1,497・・・・・・・・・・・9・・・・・・・22
5(1)・・マリムさんをよろしく(韓国)・・・・4/13・・・・・・・・・・・672・・・・・・・・14,441 ・・・・・・・・112・・・・・・・43

 2~4位の3作品が新登場ですが、2位「小説家の映画」と4位「熱帯往時」については上述しました。
 3位「スリー: まだ終わっていない」はカザフスタン・韓国合作のドラマ&犯罪スリラー。<第25回釜山国際映画祭>のニューカレンツ賞受賞作です。(パク・ルスラン監督はスターリン時代に沿海州からカザフスタン等の内陸部に移住させられた高麗人の出身です。)
 物語の舞台は1979年のソビエト連邦カザフスタ。有能なべテラン刑事捜査官スネギレフ(イーゴリ・サヴォチキン)が率いる捜査チームに加わることになった覇気あふれる新人捜査官シェール(アスカル・イリアソフ)は村を揺るがした連続殺人魔の後を追います。殺人魔との巧妙な心理戦の中で事件の糸口がだんだん現れてきますが、新しい事件が起こって混乱した隙にシェールの姉ディナ(サマル・イェスリヤモワ)が突然いなくなってしまいます・・・。
 1979年に実際にあった連続殺人をモチーフにした作品とのことです。釜山国際映画祭での公開直後の「連続殺人犯に対する古典的固定観念を再創造した」とか「残酷な犯罪及び国家システムの虚像と崩壊をリアルに力強く描いた」といった評があり、また「当局はこの事件が国際的な注目を集めた場合モスクワ五輪に悪影響を与える可能性があるとの懸念から精神病院での治療を犯罪者に命じて・・・」といった関係記事を見ると観てみたいなーという気になってきます。韓国題は「쓰리: 아직 끝나지 않았다」です。
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