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安素玲「甲申年の3人の友」は、洪英植・金玉均・朴泳孝それぞれの悲劇を描いたジュニア向き歴史小説

2014-01-11 23:49:49 | 韓国の小学生~高校生向き小説・物語
       

 常に何か1冊は韓国本を読んでいるようにしよう、と心に決めているわけではありませんが、一昨年あたりから(もっと前かな?)事実上そうなっています。
 12月にイ・チャウォン「大東輿地図」を読み終えた後にとりかかったのが安素玲(アン・ソヨン)のジュニア向け歴史小説「갑신년의 세 친구(甲申年の3人の友)」 。

 実は最近注目の小説をいくつか仕入れてくるかなと職安通りの韓国書店に行ったところ、目当ての本はどれもナシ。少し落胆して、ボーッと書架の本を眺めていたらこの本が目に入ったのです。

 安素玲の本は、本ブログで下記の2冊を紹介したことがありました。

[A] 「本ばかり読むバカ(책만 보는 바보)」 (過去記事は→コチラと、→コチラ。)
[B] 「茶山(タサン)の父に(다산의 아버님께)」 (過去記事は→コチラ。)

[A]は18世紀末の実学者李徳懋(イ・ドンム)を中心に、洪大容(ホン・デヨン)朴趾源(パク・チウォン)等々、正祖の時代の実学者群像を描いた作品です。

[B]は、[A]の一時代後(20年以上後?)、保守派による弾圧事件の1801年辛酉教難によって全羅南道康津(カンジン)に流罪となっていた実学者の最高峰というべき丁若鏞(チョン・ヤギョン)を、成人した彼の次子・丁学游(チョン・ハギュ)が訪ねていく物語です。

 そして、今回の本。
[C] 「甲申年の3人の友(갑신년의 세 친구)」>
 「甲申年」とは1884年。具体的には「甲申事変」のことです。
 金玉均等の開化派(独立党)によるクーデターですが、閔妃の依頼を受けた清軍の介入により新政権は文字通り三日天下に終わったという事件。(→ウィキペディア。)
 この本の題名の「3人の友」とは、このクーデターの中心人物である金玉均(1851~94)・洪英植(1855~84)・朴泳孝(1861~1939)の3人のことです。

 1884年当時の年齢はそれぞれ33歳、29歳、23歳。しかし彼らの没年の大きな違いが彼らの生涯を物語っています。(流転の末上海で暗殺・事変の際斬殺・日本に取り込まれ貴族院議員に。)

 この小説の冒頭(1章の前)は、クーデターが失敗に終わって、日本に逃れる金玉均等と別れ、あえて朝鮮に残った洪英植が斬殺される、という場面。のっけから前の2作とは全然違う雰囲気です。
 そして1章は、10年過去に戻って1874年。彼ら3人が朴趾源の孫にあたる朴珪寿(パク・キュス)の邸宅で、広い知識を身につけ開明的な思想を学び、志を語り合ったりする場面。ここで若い彼らが抱いた夢のことを考えると、その後の史実をおおよそ知っている私ヌルボとしてはなんとも痛ましい・・・。

 ここに描かれている当時の朝鮮の政情は、日本より10~20年遅れている感じです。1870年代だけでなく、80年代も守旧的な攘夷論が非常に根強いのです。
 そんな中で、世界の情勢をある程度知り、自国に強い危機意識を持ち、開明的な思想を抱く者は、それだけで波乱万丈の生涯、いや「悲劇的な生涯」が約束されてしまうというものです。

 日本の江戸後期~明治維新期の場合は、先覚者たちの歴史を順に見ていくと、いくつかの悲劇はありながらも、大きな流れとしては近代国家の成立&文明開化でメデタシメデタシ。読者も作中人物とともに達成感も得られます。
 ところが朝鮮の場合はまるで逆。そして現代での評価も例の「親日」等の批判があったり、悲劇は今も続いているといっていいかも。時代状況が少し違っていたら、<朝鮮の木戸孝允>とか<朝鮮の福沢諭吉>になる目があったかもしれない、・・・かどうかは措くとして、優れた資質を持った人たちだったとはいえるでしょう。

 安素玲の著作全3作は、[A]が2005年、[B]が2008年、そして[C]が2011年と、3年間隔で時代順に刊行されてきました。
 主人公の置かれた状況は、朝鮮の命運そのままに厳しくなるばかりです。
 彼女が4作目を書くとしたら、1894年の甲午改革(→ウィキペディア)のあたりか、でなければ20世紀初頭の一進会(→ウィキペディア)とか・・・。
 
 前にも書きましたが、歴史の勉強になるとともに、今の(特に安素玲さんのような進歩陣営の立場からの)歴史評価のありようも読み取れそうで、先が楽しみです。(現在、全300ページ中60ページまで読み進んだところ。)
コメント (4)
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