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流刑地・康津に丁若を訪ねる息子の物語=「タサンの父に」の作者は、獄中生活の長かった安在求の娘

2012-02-19 18:17:31 | 韓国の小学生~高校生向き小説・物語
 川崎市立川崎図書館は、JR川崎駅横、タワーリバーク4Fにあります。ビルの一室なので、とても狭く、蔵書数も横浜市立図書館とは比べるべくもないのですが、駅至近という便利さと、何よりも韓国書が相当数そろっているというメリットがあり、しばしば利用しています。
 横浜市立図書館にも韓国書はそれなりにあるとはいえ、ポピュラーな本や子ども向きの読みやすい本はむしろ川崎図書館の方が数がそろっています。

 さて、2週間ほど前にその川崎図書館に行った時に借りた韓国書が2冊。

 1冊目は、読みやすそうな子ども用の本でアン・ソヨン(안소영)著の茶山(タサン)の父に(다산의 아버님께)YES24では小学生3~4年向きとなっています。

          

 「茶山の父」とは、「牧民心書」等のドラマにも登場する丁若(정약용.チョン・ヤギョン)のことです。水原城の設計等で知られる先進的な実学者の最高峰というべき人物で、朝鮮史上の<立派な人>として高く評価されている歴史上の有名人です。
 「茶山」とは、彼の号です。彼は正祖死後、保守派による弾圧事件の1801年辛酉難で長鬐(チャンギ)(←現浦項市内)に流刑になり、さらに黄嗣永帛書事件という事件に連座して再び全羅南道康津(カンジン)に移され、そこで流配から解かれるまでの18年間学問に専念しました。その住まいが茶山という山の麓であったことから「茶山」と号したのです。

 この小説は、成人した彼の次子・丁学游(학유.ハギュ)が、生家(現南楊州市)から康津にいる父を訪ねて行く、という話で、息子の視点から描かれているという構成がこの作品の大きな眼目です。
 ・・・というのは、この小説の著者の安素玲(안소영.アン・ソヨン)という人自身の経歴が丁学游と重なっている部分に注目せざるをえないからです。

 安素玲さんの父親は、数学者の安在求(안재구.アン・ジェグ)前慶北大学教授。韓国ウィキ等によると、1933年生まれで1948年南の単独選挙に反対闘争に参加。1979年南朝鮮民族解放戦線準備委員会(南民戦)事件で死刑を宣告されたが、世界の数学者たちの抗議のおかげで無期懲役に減刑され、1987年には釈放されました。しかし1994年にはいわゆる救国前衛事件で息子アン・ヨンミン氏(←安素玲さんの兄)とともに拘束され、彼は6年、息子は3年服役しました。
 その後アン・ヨンミン氏は2001年月刊誌「民族21」を創刊し、左翼言論人として活躍しています。

※昨年(2011年)7~8月、北朝鮮の指示を受けたスパイ団が摘発されたといいう<旺載山(ワンジェサン)事件>が報道されました。(デイリーNKの関係記事→コチラコチラ。)
 この事件に関連して、安在求&アン・ヨンミン父子の自宅や事務所が捜索を受けたことも報じられています。(→コチラコチラ。)
 一方、この事件を権力による謀略とする見方も、<NPO法人 三千里鐵道><朝鮮問題深掘りすると?>に掲載されています。
 またこれも昨年8月、「産経新聞」の「韓国言論団体、朝鮮学校無償化へ工作 北の指示? 総連と接触」と題する記事にも「民族21」が登場しています。
 例によって、いわゆる「親北」ブログにしろ「産経新聞」にしろ、自分の見たいように世の中を見たがる傾向がある点に留意しつつ読む必要がありますが・・・。

 さて、ここで本筋に戻って・・・。

 「茶山の父に」の著者安素玲さんの父安在求氏も上述のように長く獄中にあり、子どもたちと直接接することはできませんでした。
 しかし、その間、ちょうど丁若が遠く離れた息子たちに手紙を送ったように、安在求父子もたくさんの手紙をやり取りしたそうで、獄中書簡をまとめた書簡集「私たちがともに歌う歌(우리가 함께 부르는 노래)」が刊行されています。

 つまり、このような作者自身の思いが作中の丁学游に投影されている、ということですね。本書の前書きでも、安素玲さん自身、具体的ではありませんが上記のようなことに触れています。

 以上がこの本の紹介なんですが、肝心の内容はまだ冒頭から5分の1程度読んだだけなので、まだ感想等は書けません。
 興味を持って読み進んでいたところ、川崎図書館で借りたもう1冊の本を読み始めたら最初から引き込まれて、そちらの方をまず読み終えてから、ということにして、そのうち読了した時点でまた記事にするかもしれません。(いつになることか・・・。)

 この記事では、そのもう1冊の本の紹介がメインで、この本のことは前書き的に書くつもりだったのが、つい安在求氏のことをいろいろ書いたために長くなってしまいました。
 もう1冊の本については次の記事にします。

★丁若の人気は現在の韓国で一般的なものだと思います。とくに1992年発行のファン・インギョン(황인경)の「小説 牧民心書(소설 목민심서)」と、それをドラマ化した「牧民心書~実学者チョン・ヤギョンの生涯」(2000年KBS)の影響力が大きかったのではないでしょうか。
 とくに、守旧派の権力の弾圧により流罪となった改革派の知識人という点は、<左翼人士>の共感を得る大きな要素だと思います。
 岩波書店とも密接な関係のある進歩陣営の代表的出版社・創批(チャンビ)から、「流配地から送った手紙(유배지에서 보낸 편지)」という書名で丁若が息子たちに送った書簡のハングル訳が刊行されているのも、そんな背景があるのかもしれません。

★南楊州市鳥安面(チョアンミョン)にある刊行ポイント<茶山遺跡地>の紹介は→コチラ
 近くには「風の丘を越えて」「シュリ」「共同警備区域JSA」の撮影地・南楊州総合撮影所もあります。
 ふーむ、これは一度行ってみてもいいかも・・・。

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