学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

0132 高橋典幸氏「鎌倉幕府論」

2024-08-01 | 鈴木小太郎チャンネル「学問空間」
第132回配信です。


一、前回配信の補足

三上皇配流をどう説明するのか。
「革命」論の萌芽もあった。

慈光寺本は本当に「最古態本」なのか。(その2)〔2023-01-24〕

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 同年夏の比より、王法尽させ給ひて、民の世となる。故を如何〔いか〕にと尋れば、地頭・領家の相論とぞ承はる。古〔いにし〕へは、下司・庄官と云計〔いふばかり〕にて、地頭は無りしを、鎌倉右大将、朝敵の平家を追討して、其の勧賞〔けんじやう〕に、日本国の惣追捕使に補せられて、国々に守護を置き、郡郷に地頭をすへ、段別兵粮を宛て取るゝ間、領家は地頭をそねみ、地頭は領家をあたとす。
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後鳥羽院の配流を誰が決定したのか。(その1)(その2)〔2021-11-24〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/937832affdcc2232ad806f192bc2e150
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/c4837f768720130d24accfbac8b27bfd
「私は泣いたことがない」(by 中森明菜&大江広元)〔2021-11-25〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/dd8e2c752fc97439861694a8f43c1eb3

「慈光寺本妄信歴史研究者交名」(その1)─作成にあたっての私の下心〔2023-10-11〕
「慈光寺本妄信歴史研究者交名」(その2)─メルクマールの追加〔2023-10-12 〕
「慈光寺本妄信歴史研究者交名」(その3)─勅使河原拓也氏の場合〔2023-10-12〕
「慈光寺本妄信歴史研究者交名」(その4)─勅使河原拓也氏の書評「高橋秀樹著『三浦一族の研究』」〔2023-10-13〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/8d982b3f719847f4e07ab1b04db273e2

治承・寿永の内乱→幕府は西国では正統的暴力を独占していない。
承久の乱→幕府は西国では正統的暴力を独占していない。

同じではないか。→強度が違う。
独占はしていないが、幕府の存在感は承久の乱後に格段に強化されている。

東国でも、承元四年(1210)六月に上総介に補任された藤原秀康は在庁と対立していた。
承久の乱後は知行国主・国司といえども国務への干渉は不可能。得分を得るのみ。

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承元四年(1210)七月小廿日丙午。晴。上総國在廳等有參訴事。是秀康〔院北面〕去月十七日任當國守。同下旬之比。其使者入部國務之間。於事背先規致非義。在廳等愁歎之刻。忽起喧嘩。刄傷數輩土民等云々。如相州。廣元朝臣。善信有沙汰。是非關東御計。早可奏達之由。被仰下云々。

https://adumakagami.web.fc2.com/aduma19c-07.htm

承久の乱後、西国では朝廷は京都の治安を守る武力さえ失ってしまい、幕府に頼らざるを得なくなった。
新日吉社の流鏑馬で、それが可視化。

佐藤進一の東国国家論は幕府成立時に関心が集中。
『日本の中世国家』(岩波書店、1983)でも承久の乱を論ぜず。
しかし、正統的暴力の独占の程度、領域支配の強度を緻密に扱えるのが「国家」に着目する強み。

統治機構の整備の度合い
外交的交渉能力の程度
 個人の力量に依存するのか、組織的に整備されているのか。

権門体制論は「予定調和」の世界。
そこには時期的変化はない。


二、高橋典幸氏「鎌倉幕府論」

大津透ほか編『岩波講座日本歴史6 中世1』(岩波書店、2013)所収。

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武士の台頭,荘園制の進展にともなう土地と人との関係の変化,貨幣経済の進展,そしてそれにともなう人々の心性の変容――古代から中世にかけて日本はダイナミックな変化をとげる.11世紀後半の院政期から16世紀後半の戦国時代まで500年続く日本の中世の姿を,社会史研究,権門体制論などの到達点をふまえて描き出す.
https://www.iwanami.co.jp/book/b371758.html

巻頭論文は桜井英治氏の「中世史への招待」。

「腕のよい職人たちのそろった下請け町工場」〔2014-03-26〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a3ee4a793f7e09aa29038a97dcb6629d
「理論を生むのに必要な渇きが足りない」(by 桜井英治)〔2014-03-27〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/e14112e16ddd3903222e2dccab922120
鯖色の手紙〔2014-03-28〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/661107ebd570764ef68f4abec0761834

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鎌倉幕府論

はじめに
一 軍事権門としての鎌倉幕府の成立
 1 権門体制論の概要と課題
 2 内乱期の軍事組織
 3 内乱の経過と鎌倉幕府
 4 軍事権門
二 軍事体制としての鎌倉幕府
 1 地頭制
 2 御家人制
 3 守護制度と東国支配
三 東国国家論と朝幕関係
 1 寿永二年十月宣旨の「発見」
 2 寿永二年十月宣旨から以仁王の令旨へ
 3 朝幕関係への注目
 4 朝幕関係の整序と将軍権力
おわりに
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0111 木下竜馬氏「治承・寿永の内乱から生まれた鎌倉幕府─その謙抑性の起源」(その1)~(その4)〔2024-07-01〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/6345a16c7c0729fa520a1f463e51af15
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4 コメント

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Unknown (筆綾丸)
2024-08-02 13:10:58
閑話
「AKB評論家の本郷和人氏」
本郷氏はどことなく秋元康に似てますね。
現在、J-POP は LE SSERAFIM(代表曲:Antifragile)や New Jeans(代表曲:OMG=Oh My God)など K-POP の後塵を拝しています。LE SSERAFIM(熾天使)は I'm fearless のアナグラムで、バカっぽいナントカ坂よりシャレていて知的な名前です。
K-POP評論家になれるほどの情熱も知識もありませんが。

「腕のよい職人たちのそろった下請けの町工場」
池井戸潤のベストセラー『下町ロケット』シリーズを思い出します。
あれは、町工場の職人が巨象(三菱重工)に挑む話で、この巨象を石母田や黒田とすれば、語弊がありますが、昨今の研究者は町工場の鼠のようなものかもしれないですね(三菱重工もボーイングなどに比べたら仔象にすぎませんが)。
なお、本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間』によれば、哺乳類の生涯の心拍数はほぼ同じ(約20億回)だそうで、ゆえに、君はマックス・ヴェーバーと同じだぜ、と言われても嬉しくないですね。
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Unknown (筆綾丸)
2024-08-02 17:38:43
八朔の出来事
ソ連崩壊後、最大の囚人交換がトルコのアンカラで行われました。関係国は、西側がアメリカ、ドイツ、ポーランド、スロベニア、ノルウェー(計16人)、東側がロシア、ベラルーシ(計10人)で、極東の小さな国からすると、スケールが大きすぎて目が眩みます。
日本は昔、超法規的措置として囚人を釈放したことがありますが、西側五ヶ国も超法規的措置として処理したのでしょうね。いちばん悩ましかったのはドイツのショルツ首相で、チェチェン独立派の元司令官をベルリンで殺害したFSB大佐(終身刑)の釈放を決定したことですね。

権門体制論者は、三上皇配流は鎌倉幕府による超法規的措置である、と考えるのかどうか。
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小役人の論理 (鈴木小太郎)
2024-08-03 23:03:21
>筆綾丸 さん
三上皇配流が刑罰なのかについては慈光寺本の「逆輿」に関連して検討しましたが、おそらく新帝による後鳥羽院「御遷幸の宣旨」が出され、刑罰としての「配流」ではなく、単に引越しを願ったという形式にしたのだろうと思います。
権門体制論者の中では、高橋秀樹氏は『三浦一族の研究』において、「十三日には後鳥羽上皇の隠岐遷座(実質的には配流)が決定した(『百錬抄』)」(p138)と書かれているので、私が想定した論理と同じように考えておられるのかもしれません。
ただまあ、この論理で納得できるのは、後鳥羽配流に関し、何とか理屈をつけろと言われた朝廷の小役人と、現代の小役人タイプの研究者だけかもしれないですね。

「慈光寺本妄信歴史研究者交名」(その59)─「後鳥羽上皇の隠岐遷座(実質的には配流)」(by 高橋秀樹氏)〔2023-11-24〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/55e0eb214dd2cdf5767efd09258f0715
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Unknown (筆綾丸)
2024-08-04 14:42:24
パリ五輪開会式では、LGBTQ+的な Cena(最後の晩餐)とともに、マリー・アントワネットの斬首のパロディが話題になりました。
三上皇の動座は、権門体制論的には御幸(excursion)、東国国家論的には追放(expulsion)、すなわち、ヤヌス的で二項対立的でアンビバレントなるものであって、ex-(~の外へ)は共通しているものの、ベクトルは正反対である、というようなことになりますか。

蛇足
アニメ「逃げ上手の若君」への若干の疑問
時行の袴の裾にある紋は同志社大の徽章と同じですが、あれでは三つ鱗の残党か、と疑われてしまうのではないか。
https://www.doshisha.ac.jp/information/emblem/index.html
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