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「国際忍者研究センター」の土着ボケ黒ミサ研究

2017-03-13 | 山口昌男再読
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 3月13日(月)11時49分8秒

ツイッターで三重大学「国際忍者研究センター」の研究員募集がちょっと話題になっていますね。
朝日新聞の2月21日付記事によれば、

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三重大、忍者の国際研究センターを伊賀に設置へ

 「地域創生」への貢献を掲げる三重大学が、学外の研究拠点、地域サテライトの設置を本格化させている。一足早く地域との連携が進む伊賀市の伊賀サテライトでは17日、双方が協力を確認し合う式典があり、大学側が2017年度中に「国際忍者研究センター」(仮称)を市内に設ける考えを明らかにした。【中略】
 忍者の研究センターには、専門の研究員1人を配置。国際的にも注目されている忍者についての学術拠点にするという。

ということで、3月9日付の三重大学の教員公募を見ると、確かに「忍者研究に関し実績のある者」が応募資格となっています。


最初にこのニュースを聞いたときは単純に面白い話題だなと思いましたが、ただでさえ少ない歴史系研究者の就職先が「忍者研究に関し実績のある者」みたいなキワモノ研究者に占拠されてしまうのは悲惨というべき事態ではなかろうか、という思いがジワジワとこみあげてきます。
「地域創生」みたいなことを学術分野で推し進めると、こんな「土着ボケ」の「黒ミサ」研究になってしまうのですかね。
なお、「土着ボケ」「黒ミサ」は、山口昌男「ユダヤ人の知的熱情」の次の文章より借用しました。(岩波現代文庫版『本の神話学』、p40以下)

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 同胞の読めない(と本人たちだけが思っている)外国語の新着書棚のセールスのような文章を書いて、同胞を威嚇しながら利ざやを稼ぐだけが本とのつき合い方ではないはずであり、多くの場合創造的な思考というのはそういった「年金生活者」的文筆業者(相も変らず外国文学紹介屋を兼ねる大学教師に多い)とは無縁なのである。もちろん一見イキな恰好をしなければ商売がなり立たないポン引き的「紹介者」と決定的に異なる、チャペックやクルティウスのごとき、新しい文学の発掘者と創造的知性が二重写しになる場合もないではない。だが、多くの場合、紹介屋の文章は「新しさ」を装えば装うほど、「読み捨て」られる速度は増し、その多くは十年の歳月にすら耐えることはできないといっても、だれにも失礼にはならないだろう。【中略】われわれもそろそろ「新しさ」の祭祀〔カルト〕を離脱し、そこに投資される莫大なエネルギーを、新に歳月の侵蝕作用に耐える知的生産に転化しなければならない時期にさしかかっているのではないか。「土着ボケ」の黒ミサと文化的ポン引きを司祭とする「新しさ」の祭祀をいかに同時に止揚していくかこそが、二十世紀後半のこの国の知的生産に携わる者の課題にちがいない。
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まあ、日本史の場合、もともと歴史理論の分野以外ではポン引き的「紹介者」は少ない反面、ある意味、大半が「土着ボケ」の「黒ミサ」研究者ともいえそうですが、「国際忍者研究センター」はちょっとひどすぎる感じがします。

>筆綾丸さん
エマニュエル・トッドがヴォルテールの『哲学書簡』にはクエーカー教徒に関する笑える話が載っているとか書いていたので、『哲学書簡』の最初の方だけは読んでいたのですが、啓蒙思想の基本を押さえるために他にも色々読む必要がありそうです。
以前、レナード・バーンスタインのことを調べている時に気になった『カンディード』も、比較的短い作品のようなので早めに読んでおきたいですね。


※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

ヴォルテールのアナグラム 2017/03/11(土) 14:57:37
小太郎さん
ヴォルテールは恐ろしく難解な人ですね。

日本語のウィキに、「Voltaireという名はペンネームのようなもので、彼の名のArouetをラテン語表記した"AROVET LI" のアナグラムの一種」とありますが、これでは LI の意味がまるでわかりません。仏語には「anagramme d’Arouet l.j. (le jeune)」とあり、ヴォルテールは次男坊なので、LI は le jeune(若い方の奴)に依拠するらしく、アナグラム作成においては I と J は交換可能なのですね。
もうひとつの説明は、「inversion des syllabes de la petite ville d'Airvault (proche du village dont est originaire la famille Arouet」、つまり、アキテーヌ地方のアルエ家発祥の村の近くにエルヴォーという小村があり、これを vault-air と反転させれば、無声の lt が有声化してヴォルテールという発音になる(まるで Epiphanie のように)、ということのようですが、ヴォルテールのような反逆的な思想家が先祖の本貫の地などに拘泥したろうか、という疑問が湧いてきますね。
真偽は不明ですが、いずれにせよ、俺はvolontaire(自発的な、頑固な)だ、と言いたいのでしょうね。

ご紹介の英文の最初の Note に「If you with to copy the text, you are welcome to do so. 」とありますが、with は wish の微笑ましい誤りですね。
ヴォルテールの原文は、若い頃に詩人を目指しただけあって、綺麗に韻を踏んでいるのですね。この詩の形式が、フランスの詩の伝統では、どのような位置付けをなされるものなのか、知識がないのでまるでわかりません。一連における行数などはかなり変則的ですが、フランスのインテリなら、これを見て、ああ、あれだね、と何か思い当たるものがあるのでしょうね。

どうでもいいことですが、ヴォルテールが洗礼を受けたとされる Église Saint-André-des-Arts(サン・タンドレ・デ・ザール教会)は、1807年に取り壊されて、現在は広場になっているとありますが、冬の寒い日に、写真にあるカフェで vin chaud(ホットワイン)を飲んだことがあります。
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