学問空間

【お知らせ】teacup掲示板の閉鎖に伴い、リンク切れが大量に生じていますが、順次修正中です。

NHK天皇退位報道への違和感

2016-07-15 | 天皇生前退位
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 7月15日(金)11時32分5秒

一時は「この人は凄そうだ」とそれなりに燃え上っていた私の宇野重規熱も、『中央公論』(2015年12月号)での宇野氏と小熊英二との「対談 安保国会と官邸前デモは何を示したか 民主主義のこれからについて話そう」を読んで、すっかり冷めてしまいました。
私はデモ煽動家の小熊英二が本当に苦手で、あのだらしない髪型とどんより濁った目が全く駄目です。
坊主憎けりゃ袈裟まで、ではありませんが、小熊英二のような人と仲良くデモ談義をしている宇野氏からも暫く遠ざかっていたい気分です。
また、「国家神道」について本格的に論じ始めたらおそらく100投稿、もしかしたら200投稿くらい必要になるなあ、と思うと、なかなか踏み込めません。
ということで、いささか足踏み状態が続いていますが、天皇退位問題はちょっと面白そうなので、当面のツナギ的な感じで少しやってみようかなと思います。
さて、私は7月13日のNHK報道に最初から非常に違和感を覚えたので、聞いた直後にツイートした内容をこちらにも転載しておきます。

天皇陛下 「生前退位」の意向示される
7月13日 19時00分
------
現在の皇室典範は「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」(4条)となっているので、生前譲位を行うためには皇室典範の改正が必要だなあ。ちなみに明治憲法下と異なり、現行憲法下では皇室典範は普通の法律。

皇室典範16条2項、「天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く」を改正して摂政を置く場合の要件を緩和し、皇太子を摂政にするのがいいんじゃないかな。摂政だったら元号はそのまま。

「代役を立てたりして天皇の位にとどまることは望まれていない」とあるけど、天皇は「国政に関する権能を有しない」(憲法4条1項)のだから、皇室典範の改正の方向性を示すような意思の表明はまずいよなあ。

老齢なので負担が大きいから新しい仕組みを希望する、までは良いけど、ではその仕組みをどうするかの決定については、方向性の示唆を含め、天皇が関与してはならないはず。宮内庁職員が天皇の本当の意向はこれこれだ、という形で情報を流すことは問題が多い。
--------

要するに私が抱いた疑問は、実質的に天皇に皇室典範改正の発議権を認めるような対処は、天皇に「国政に関する権能」を認めることになってしまい、憲法違反ではないか、というものです。
その後、ネットを観察していたら、東京高裁裁判官の岡口基一氏が、小林直樹氏の『新版・憲法講義(下)』(東大出版会、1988)に参考になる記述がある旨をツイートされていたので、これを見たところ、確かに考察の出発点として役に立ちそうです。
そこで、まず、小林氏の見解を紹介しておきます。(p57以下)

-------
 皇位継承の原因は,天皇の崩御にかぎる.歴史上,生前の退位の例はかなり多いが,旧皇室典範は,これを廃した(天皇本人の意思で退位することも,病気その他による場合でも,退位を認めない).現憲法下では,戦争責任の問題で戦後一時,天皇退位論がおこなわれ,典範制定のときにも議論されたが,退位の規定はおかれず,一般に消極に解されてきた*.しかし,他方では,生前退位を制度上も認めるべきだという有力な議論がある.立法論的には多分に問題となる点であろう.

* その主な理由は,自由意思による退位を認めることにすれば,即位の場合にも継承順位該当者の自由意思を尊重すべきだということになり,「退位および即位の双方に自由意思を認めるとすれば,極端な場合を想定すれば,すべての皇族男子が退位し,かつ,即位を拒否することも考えられないではない」.これでは困ると考えた立法者は,「天皇に私なし,すべては公事であるという点に重点を置いて退位の制度は設けなかった」(憲調・運用の実際,第2編3章)のだという.もうひとつの理由としては,天皇の自由意思が偽装されて「退位」がおこなわれるといった,弊害が生じないともかぎらない,という配慮が働いたようである(同上参照).しかし,憲法上「退位」制は否認されているわけではなく,憲法政策としては論議に値するというべきである.
-------

そして、「生前退位を制度上も認めるべきだという有力な議論がある」に 32)との注記があり、それを見ると、

------
32)小島和司(「再び天皇制について」,公法研究10号所収)は,天皇に違憲行為がある場合,「最悪の場合には退位(憲法第2条の「世襲」はかならずしも終身制を要求しない)を考えて良いのではあるまいか,これを否定することは,あまりにも,明治憲法的『神聖不可侵』思想にとらわれているだろう」(同上43頁)とみる.稲田陽一「皇位」(講座,第1巻,226頁)も,立法論として,「不適格なる天皇は……皇位継承資格の順序変更との均衡をとるためにも,強制的に生前退位を認むべきであろう」,と提言している.同様に一円一億・憲法基本問題の研究(105頁)も,「天皇の退位を許さないと解すべき理由は存在しない」とする.少なくも「退位の制度を規定することも,理論的には可能である」(佐藤達夫,憲調三委での発言)し,実際的にも考慮さるべき問題だといえよう.
------

とのことで、かつては天皇の戦争責任のみならず、「天皇に違憲行為がある」とか、「不適格なる天皇」とか、なかなか物騒な状況を想定した天皇退位論が盛んだったようですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする