学問空間

【お知らせ】teacup掲示板の閉鎖に伴い、リンク切れが大量に生じていますが、順次修正中です。

もしも展覧会会場が火事になったら

2013-11-11 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年11月11日(月)12時06分17秒

>筆綾丸さん
2007年刊の鴨川達夫氏の『武田信玄と勝頼』に「「毛松」か否かはともかく」程度のあっさりした記述しかないのであれば、「猿図」自体の研究はさほど進んでいないようですね。
紙や絵具等を科学的に分析すれば、少なくとも中国で描かれたのか、それとも日本で描かれたのかくらいは分かりそうな感じがしますが。
ま、素人考えですけど。

>男性キュレーター
Hongxing Zhang 氏ですね。
この人の名前で検索したら、今回の展覧会に関するインタビューが出てきましたが、「火事になったらどの作品を持ち出しますか」という質問はすごいですね。

-----------
Which piece is the one that you would take if the place was on fire?

(Laughs) Curators can’t play favourites. But there is this one piece. It’s a portrait that has subtle strength, it’s a painting of by an anonymous artist done in the early 16th Century. The person in the portrait was a leading figure in his native place and the sitter put an inscription hidden in the back and wrote about his thoughts on the portrait and reflected on his life. That piece was incredibly moving.


V&Aの展覧会のために優品を貸与した世界各国の博物館関係者を不安にさせるこの質問に対し、Hongxing Zhang 氏は「16世紀の作者不明の肖像画」と答えていますが、これは80歳記念にShen Zhou(沈周、1427~1509)を描いた絵なんですね。
V&Aの解説には、

--------
Unidentified Artist, Portrait of Shen Zhou at Age Eighty, 1506, The Palace Museum, Beijing. © The Palace Museum Collection


とあります。
もう少し説明が欲しいなと思って取りあえずウィキペディアを見たら、この肖像画は沈周の自画像だとあり、少し混乱しました。


こちらのサイトでは沈周の弟子が描いたとありますね。


正直、この肖像画がそんなに優れたものなのか分かりませんが、できれば火事の時には「猿図」を持ち出してほしいですね。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

入神の猿の悲しみ 2013/11/10(日) 15:46:39
小太郎さん
県立の「歴史博物館」にしては、お粗末ですね。公立の建物は悪食な建築家たちのカモですが、ネギくらい、ちゃんと揃えておけ、という感じですね。

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0703/sin_k343.html
『武田信玄と勝頼』(鴨川達夫氏)に、「猿図」と送り状(部分)の写真が掲載されていますが(132頁)、秦恒平氏の次の記述は、滅亡した武田家へのレクイエムのようで、いいものですね。送り状の末尾には、確かに、七月十九日 信玄(花押)、とあります。
-----------------------------
『猿図』は三条夫人が輿入れの時に持参していた。その価値を夫人はよく知っており、不幸な娘の死と曼殊院覚恕の慶びとがたまたま重なった際に、どうぞ『猿図』を都へと、ほとんど自身の帰郷ならびに夫上洛成就の祈願さえ籠め、はや死を覚悟の最期の頼みとして信玄に勧めた、と。この推測にもし従えば、『猿図』は、「毛松」か否かはともかく、室町時代の都に、『君台観左右帳記』の記載にふさわしく、公方ないし公家社会に既にもたらされていた逸品だったと言える。
---------------------------

Victoria and Albert Museum の男性キュレーターは、インタビューで、「猿図」を magical naturalism と評し、とりわけ、猿の目を闇の中の神に譬えて絶賛していますね。私はずっと、この絵は亡国の天子徽宗皇帝のものだと思っていましたが、伝毛松、なんですね。美術館では、A Monkey by Mao Song と断定していますが。女性司会者は、猿に神の俤を見出す発言に対して、なに寝言いってるの、という感じですぐ話柄を転じていますね。
キュレーターは、おそらくオディロン・ルドンなどを念頭におきながら magical naturalism と言っているような気がしますが、猿の神々しい目が三条夫人の末期の瞳のようにみえてきて、秦恒平氏の推定が、実証的ではないものの、これでいいのではないか、という気がしてきました。
ロンドンでも、この猿が日本猿なのかどうか、話題になれば面白いですね。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E7%8B%99%E4%BB%99
日本画では森狙仙が有名で、猿の祖先と紛らわしいのですが、たしか、猿の狙仙、と呼ばれていますね。

伝毛松「猿図」の神々しいまなざしには、ヒトの祖先はサルではなく、実は、サルの祖先はヒトなんだ、と思わせるパラドクシカルな神韻の如きものがありますね。人間であった頃の遠い昔を追憶している猿のダーザイン的な悲哀・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする