大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

--- 映ゆ ---  第130回

2017年11月20日 22時03分12秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



『---映ゆ---』 第1回から第125回までの目次は以下の 『---映ゆ---』リンクページからお願いいたします。

   『---映ゆ---』リンクページ







                                        



- 映ゆ -  ~ Shou & Shinoha ~  第130回




遠くにいるシノハに焦点を合わした後、渉が奏和を振り仰いだ。

「苦しめる? 私がシノハさんを・・・?」 驚いた顔で奏和を見た。

「そうだ。 渉が叫べば叫ぶほどに、彼がどれだけ苦しんでいるか考えろ」

渉の目に涙が浮かんでボロボロと流れ落ちる。 
自分がシノハを苦しめている。 分かっている。 どこかで分かっている。 でも分かっているだけで・・・。 否、分かっているからこそ、とめどなく涙が出てくる。

「な、渉。 冷静になろう」 しゃくりあげて渉が泣く。

(どうすりゃいいんだ・・・) 

奏和の表情を見てセナ婆が渉に問いかけた。

「娘、己の足で立てるか?」

「渉どうだ? 立てるか?」 

セナ婆と奏和の問いに、涙をボロボロ流しながら頷いた。

「そっか。 じゃ、降ろすけど俺にしがみついてろよ」 

今の渉がしっかりと立てるかどうかが分からない。 奏和自身、力を抜く気はないが、万が一がある。 小さい渉といえど、子供ではないのだから。
ソロっと渉を降ろすと、二本の足で立った渉がしっかりと奏和にしがみついている。 

「どうだ? ちゃんと立てるか?」 しがみつかせてはいるが、奏和もしっかりと渉を支えている。

渉が頷く。
渉に回していた手をゆっくりと離した。 が、置いてきぼりはごめんだ、すぐに腕を掴んだ。
渉の近くまでやって来たシノハ。

「ショウ様・・・」 

シノハを見た渉の目から、なお一層、涙がポトポトと落ちてくる。

「シノハさん」

共に目を合わせた。 シノハの本来なら白いはずの部分が、濃い茶の瞳の周りで真っ赤にしている。

「ショウ様、泣かないでください。 我は笑っているショウ様を見ていたいのですから」 相好を崩した。

そんことを言われても簡単に涙など抑えられない。 とめどなく大きな粒が流れ落ちる。

(シノハさん・・・) トデナミの胸に刺されたような痛みを感じた。

「泣いているショウ様を見るのは、我は・・・辛い。 ショウ様は誰よりも笑顔が似合うのですよ。 どうか、泣かないでください」

「シノハ、さん・・・」 なんとか涙を止めようと目をギュッと押さえる。

「ショウ様、我には何が似合いますか? 教えてください」

「・・・どうしてそんなことを聞くの?」 ヒックヒックと息を鳴らしながら懸命に涙を堪えようとする。

シノハが両の眉を上げた。

「我は今ショウ様に、我が思うショウ様の一番似合うことを言ったのです。 ショウ様も我に教えてくれませんか?」

「・・・」

「ショウ様?」 にこやかな笑みを崩さず渉に問う。

「・・・シノハさんと話している時・・・」

「はい」 いつものように、相槌を打つ。

「シノハさんが嬉しそうにした顔が好きで、ずっと見ていたいと思っていた」

「思っていた? では今はそうではないのですか?」 わざとからかうように言う。

「そんなことない!」 慌てて言いかえる。 まだ目に涙はたまっているが、いつの間にか大粒の涙は無くなっていた。

「今もずっと思ってる。 これからもずっと思ってる。 シノハさんの嬉しそうな顔をみるのが大好き」

「そうですか。 では我はずっと嬉しい顔をしています。 尽きることなく。 嬉しく思えることを探してでも。 ・・・ショウ様に見てもらうために」

「どうしてそんなことを言う―――」 言いかけた渉の言葉を遮る。

「ショウ様」

「・・・」 渉が顔を顰める。

「・・・嘘でもいい。 笑ってもらえませんか?」

「なんで・・・」

「我は僅かな時でも、ショウ様の笑っている顔を見たいのです」 

と、渉とシノハの会話の間に奏和が入った。

「渉、こっち見てみろ」 唐突に自分の顔を指さす。

「なによ・・・」 シノハを見ていた目と全く違う、針のような・・・剣山のような目で奏和を見上げた。

「布団が吹っ飛んだ!」 勇気を出して渉の腕を離すと、ジェスチャー付きの大声で言った。 と、すぐに渉の腕を取る。

「バ・・・バッカじゃない? オジサンギャグじゃない・・・」 言うと呆れた顔をしたが、何故か笑みがこぼれる。

「そう、そのお顔が我は好きです」

「シノハさん・・・」 渉の含羞にシノハがより一層微笑みを返す。

「ショウ様、婆様が仰っておられました。 ショウ様がどうして元の場所に帰ることが出来たか知っていましたか?」

「え?」

「いつも突然帰って行かれていた。 もしかしたらご存じなかったのでは? それとも知っていましたか?」

「知らなかった。 でも、お婆さんを疑っているわけじゃないけど、そうじゃなくて誰かが邪魔してると思ってる」

現在進行形である。 だからして今もそう思っている。 渉の返事にシノハがにこやかに答える。

「誰も邪魔はしておりません。 ショウ様は我と居る時に、ショウ様の居らっしゃる所の誰かを思い出して・・・想っていたのです」

「どういうこと?」

「ショウ様の周りにいる誰かを想う。 そうすると元の場所に帰るのです」 

奏和が渉の腕をギュッと掴んだ。

「シノハさんと居るのに、誰かほかの人の事なんて考えるはずがない」 

「そんなことはないですよ。 ようく思い出してみてください」

「だって、シノハさんと一緒に居るのよ。 そんな時に・・・」 言うと、今までのことを思い出した。

「思い当たりましたか?」

「だって・・・」

「ショウ様は元居る場所の、周りにいる方のことを想っていらっしゃるんです」

頷きたくはない。 もしこれが奏和相手だったら、正直に認めず頷かなかっただろう。 だが相手はシノハだ。 頷きたくはないが、正直にコクリと頷いた。

「でもそれは、カケルやパパやママなんだから、特別なんだし・・・」 そこまで言ってカケルと父親母親が、シノハと天秤にかけられるかと逡巡した。 かけられるはずだったのに、だからシノハの元に来ようと思ったのに。

(なに? それって俺と翼は無視かよ) 奏和が心の中で悪戯に思ったが、カケルや渉の両親と比べられるはずはない。 よって声に出すことはなかった。

「ショウ様はまだまだ元の場所の方々のことを想っておられます。 その方々もショウ様のことを想っておられます。 まだまだ我はその方々に追いつけないようです」

「そんなことない!」

「ショウ様?」

「なに?」

「互いに落ち着いて考えませんか?」

「なにを考えるって言うの? 私はシノハさんと一緒に居たいと・・・決断したよ」 一瞬前の逡巡が頭をかすめる。

「それは婆様から語りを聞く前です」

「聞いても変わらない!」

「ショウ様、我らには考える時が必要です」

「そんなものは要らない!」

「我はずっとショウ様と共に居たい。 ずっと・・・ずっとこの身が絶えるまでショウ様と居たい」

渉が頷く。

「ショウ様、時はあります。 婆様の語りを思い出してください」

「思い出す?」

「はい。 ショウ様と我は繋がっているのですよ。 いつでも逢えます。 でも、次に逢うまでに渉様の周りの方々のことを考えてください」

「周り?」

「はい。 ショウ様を想っている方々が居られることを」 言うとシノハが表情を変えた。

「我にはショウ様が作って下さったこれがあります」 懐から巾着を出して大切そうに手で包む。

「ショウ様はまだジョウビキを持ってくださっていますか?」

「もちろんよ。 いつもポケットに入れてる」 言うとポケットからジョウビキを包んでいるハンカチを出し開け、ジョウビキを見せ優しく撫でた。

「ショウ様・・・。 我は嬉しい」 目を細め渉を見て続ける。

「ショウ様」

「・・・」

「元の場所でショウ様を待っていらっしゃる方々が居られます。 今日は長く話し込んでしまいました。 ご心配をかけてしまいます」

「元の場所・・・の誰か・・・?」

「はい」

「今はシノハさんと一緒に居るんだから、誰かなんてない・・・」 言葉尻が小さくなる。 此処に来る前のことが頭をよぎったからだ。

(小母さん・・・勝手に長く出てきちゃった。 きっと心配してる)

渉と奏和の姿が揺れた。


一瞬誰かに手を取られた。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« --- 映ゆ ---  第129回 | トップ | --- 映ゆ ---  第131回 »
最新の画像もっと見る

小説」カテゴリの最新記事