大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

辰刻の雫 ~蒼い月~  第10回

2021年11月12日 23時42分02秒 | 小説
辰刻の雫 (ときのしずく) ~蒼い月~  第10回




家に戻った紫揺。 すぐにガザンが紫揺の後ろに付いて家に入って来た。 さっきから走ってばかりいる紫揺が気になったようだ。

東の領土に来て最初のうち散歩以外は紫揺の部屋に入れていたが、半年ほど経つとガザンが一人で家を出て行くようになっていた。
その頃には領土の子供たちはガザンを気に入り、大人もガザンを怖がらなくなっていた。 もちろん子供も大人もガザンからの紫揺チェックは受けていた。

玄関の横に濡れた手巾を置いておくと、ガザンが自分で足の裏をこすりつけ、外の砂を拭いて家の中と外を自由に行き来している。
一つ注文があるとすれば、開けた戸は閉めて欲しいということくらいだった。

ガザンが部屋に入ってくると紫揺が襖を閉め、屈んでガザンに話しかける。

「ガザン、ちょっと家を空けるの。 またお留守番しててね。 皆と仲良くしていてね」

シキの祝いの時に数日家を空けたが、その間ガザンはみんなと上手くやってくれていたようだったと紫揺は思っているが、ガザンにしてみればこの領土の民は紫揺を大切に想っている、向かって行く相手などいないと思っている程度である。

立ち上がり着替えようとするとガザンがまとわりついてくる。

「ん? なに? どうしたの?」

ガザンに邪魔をされながらも帯を解くと、その臭いをガザンが嗅ぎまくっている。

「ん? ああ、マツリの臭いね」

初めての臭いに敏感になっているのだろう、と思う紫揺だが、既にガザンは祭の時に嗅いだこの臭いを知っていた。

着替えながらガザンを見ていると、マツリとガザンは会わせられないなと思う。 紫揺が気に入らない人間にはもれなくガザンが喰ってかかるからである。 まぁ、会わせる気など毛頭ないが。

スカートからズボンに履き替えた。 ズボンと言ってもGパンでもなければジャージでもない。
乗馬を始めた紫揺に職人が慌てて作ったものの一つであった。 皮で出来た筒ズボンである。 上衣は先程まで着ていたものと同じ様なもので長さが違う。 膝上までの長さで横にスリットが入っている。 そしてその上に皮で出来たベストのような物も作られていたが、今の季節は暑いだけである。 身には着けなかった。

今回着ている上衣と下衣はどちらも青色であった。 上衣は薄い青、下衣は濃い青。
乗馬を始めた紫揺に職人が三つもの衣装を作った。 青、紫、黒と汚れが目立たぬようにと下衣は濃い目の色で染め上げた鞣した皮で出来たものだった。
そこで紫揺が言った。

『綿にして下さい。 これからは皮を使わないでください』 と。 皮は生き物の皮を剥ぐことになるのだから。
とは言ったものの、作ってもらったものを無視できるはずもない。 乗馬を教えてもらう折にはその三着をずっと着ていた。

上衣の合わせの着方も心得ている、皺を入れることなく着ることが出来るようになっていた。
帯はえんじ色をチョイス。 帯結びも一人で出来る様になっていた。 あくまでも日本のようなお太鼓ではない。 単純に言うと蝶々結びのように結ぶのだが少し違う。 常なら飾り結びをしたあとの帯を長く後ろに垂らすが馬に乗るのだ、この時にはもう一重身体に巻いて垂らす長さを短くしている。 そんなところも一人で出来る様になっていた。

ただ、どうしてか昔から蝶々結びが縦結びになる紫揺である。 考え事をしながら帯を括ると何とも言えない帯結びが仕上がってしまう。

そしてこれに長靴を履く。

「紫さま!」

玄関で長靴を履いている紫揺に外から入ってきた此之葉が声を掛けてきた。
湖彩に此之葉を押さえておいてくれと言ったのに、此之葉は家を出ていたようだ。

「本領にお出になられるとお聞きしましたが」

「はい。 でも此之葉さんはいいですよ。 一人で行きます」

「お一人でなど!」

五色と “古の力を持つ者” が分かれるなど有り得ない。

「マツリが了承していますから」

「ですがお一人でなど!」

「大丈夫です。 それにほら、此之葉さん馬が苦手でしょ?」

「あ・・・。 ですが・・・」

馬と言われて思わず引いてしまった。

「いいから、いいから。 納得したら帰ってきますから」

五色の力を訊きに行くと聞いている。 あの時の紫揺の施術は間違いがなかったはずだ。
あの時、北の領土の者である影と呼ばれていた者の一人の身体を癒したとき。
何が分からないのだろうか。 紫揺の瞳が紫色になっていたのが疑問の原因だろうか。
だがその事実を此之葉は紫揺に伝えていない。

「紫さま、あの時、船で北の者を癒しておられた時」

「え? 癒すなんて言わないで下さい、適当に思い浮かぶことをしただけですから。 それが偶然に当たっただけだから」

「あの時・・・紫さまの瞳が紫色になっておられました」

「え?」

名を紫と呼ばれる由縁。 それは東の領土初代五色がその瞳を紫色にしたことから始まった。

(私の瞳が紫なっていた?)

長靴に筒ズボンを入れている手が止まる。

紫色の瞳を持たなくとも東の領土の五色は代々紫と命名されていた。 それは “紫さまの書” を読んで知っている。 “紫さまの書” は二代抜けてはいるが “紫さまの書” からは初代を除くと紫色の瞳を持つ者がなかったとも書かれていた。

シキから紫色の瞳の話は聞いていた。 だが自分がそうなっていたとは思いもしなかった。
父と母の元に生まれ成長した。 そして仮という形で領土に入って五色の話を聞いて、いや、それ以前に自分が純粋な日本人じゃなかったと聞いて、今の段階で二年にも経っていない。
どうして瞳が紫色になったのか。 それに此之葉の言う瞳が紫色になったあの時は、まだ東の領土に入ると決めていない時だ。

紫揺の中で色んなことが駆け巡るが、そんなことを此之葉に言ってどうする。 再び手を動かし思考を此之葉に向けた。 此之葉が今も喋っている。

「“古の力を持つ者” は五色につくというのが―――」

やはり馬のことが気になるのだろう、先ほどとは勢いが違う。 それでもこうして言い尽くしてくれる。 知らず笑みがこぼれる。

「それは昔の話ですよ。 四六時中、一緒に居なくても大丈夫ですって。 それより私が居ない間に此之葉さんはお料理の腕を磨いておいて下さい」

「え?」

「帰ってきた時のお料理を期待してますね。 あの堅物を唸らせてください。 じゃ、行ってきます」

紫揺が鮮やかな青い衣を翻して玄関を走って出た。 目指すはマツリの居る所。

「・・・え?」

此之葉が紫揺の残像に声を向けたが、もうそこに紫揺はいない。 紫揺の部屋からのっそりと出てきたガザンが、反応の遅い此之葉を呆れたように見ていた。

厩まで走ると八人のお付きと八頭の馬が居た。 紫揺を入れて馬に乗るのは九人。 一頭には二人乗りをするのだろう。 紫揺が降りた後に紫揺の馬に誰かが乗るのだろう。 それは塔弥か阿秀か・・・。 いや、曳き馬かもしれない。 あの紫揺の愛馬だ、簡単には誰もその背に乗せはしない。

上空ではマツリを乗せたキョウゲンが旋回している。
紫揺が愛馬に乗った。

「行きましょうか」

阿秀が先頭を走り、殿(しんがり)は梁湶(りょうせん)。 阿秀に続く紫揺のすぐ後ろには塔弥が付き、その後ろに若冲(じゃくちゅう)。 そして二人乗りの野夜と醍十(だいじゅう)と続く。 紫揺の左右には湖彩(こさい)と悠蓮(ゆうれん)がいる。

阿秀は紫揺がどれ程走れるのかは知っていたが、あくまでも軽い駈歩程度に抑えている。

「阿秀さん、遅すぎ!」

後ろから紫揺が叫ぶ。

「ですが万が一にも落馬をされては―――」

振り返った阿秀が言い終える前に、襲歩で阿秀を抜いて走り出した。 陣形が崩れる。

「紫さま!」

阿秀が、塔弥が、皆が紫揺を追う。
空からそれを眺めていたマツリ。

「何とも言い難いな」

「リツソ様のことをご心配されているのでしょう」

「いや、それ以前の話だ。 東がやっと見つけた紫だというのに、アイツはそれを分かっておらぬようだな」

シキが心を痛めていた紫があのような者とは。

「・・・」

「どうした?」

キョウゲンの返事がない。

「・・・いえ」


阿秀も塔弥もその他の者も紫揺に追いつけなかった。 何故なら、紫揺の乗っている馬はこの領土で一番早く走る馬だったということと、騎乗している人間の重さ、そしてスタートの差があった。

山の麓で紫揺が馬を降りると遅れてやってきた阿秀と塔弥が馬を降りる。 塔弥が自分の馬の手綱を阿秀に預け、紫揺の乗っていた馬を警戒しながら紫揺から手綱を預かる。

「何日かかるか分からないけど、気にしないでって領主さんに伝えておいてください。 帰ってきたら歩いて家に戻りますから。 じゃ、ちょっと行ってきます」

若冲、湖彩と悠蓮が、そして梁湶がようやっと馬を付けた。 遅れて野夜と醍十の二人乗り。

「ドンダケ自由なんだよ・・・」

誰がこぼしたのだろうか。

阿秀が上空を見上げる。 キョウゲンに乗ったマツリの姿が見える。 そのキョウゲンが下降を始めたのが目に映る。
マツリが徒歩で紫揺に付いてくれるのだろう。 阿秀がホッと胸を撫で下ろす。

「阿秀・・・」

塔弥の声だ。

「大事はないだろう。 山の中からはマツリ様がついて下さるようだ」

だが塔弥が渋面を作った。

「この先は我らの知らぬ所。 踏み入れることが出来んのだから仕方のないこと。 だがマツリ様がついて下さる」

塔弥だけではなく誰もが渋面を作る。 どれだけ紫揺が自由気ままにしていても己たちが守るべき五色の紫である、他の者の手になど預けたくはない。 たとえそれがマツリだとしても。

「それよりも・・・」

阿秀が上げていた顔を下して全員を見渡した。

「誰が紫さまに襲歩をお教えした」

もう一度阿秀が一人一人を見る。
誰もが互いを見るが首を横に振るだけだ。

「阿秀、誰もお教えしていません。 その、紫さまとその馬です」

梁湶が全てを含んで言う。
その含みに阿秀が眉根を寄せる。
紫揺とこの馬が勝手に走ったということか。 最初に紫揺に乗馬を教えたのは阿秀だ。 紫揺の感覚の鋭さは知っている。 そして紫揺と気が合い紫揺に応えるだろうこの馬のことも。



紫揺が乗馬を教えてくれと言ってきた時、渋りはしたが五色の言うことを撥ね退けるわけにはいかなかった。 領主と相談し、諾ということになった。
そこで紫揺を厩に連れて行き一頭ずつを見せた。 もちろん塔弥を除くお付きたちもついて来ていたが、教えるのは阿秀と決まっていた。

手前から一頭ずつを見ていった紫揺。

『お気に召した馬はおりましたか?』

まるで全部の馬を見て回った後のように阿秀が言う。 だが一頭、見せてもらっていない。

『え? あの馬は?』

離れた所にポツンと繋がれている馬を見せては貰っていない。

『あれは気が荒いと言いましょうか』

『紫さま、あの馬はいけません。 足が速いだけで、隙を見つけては噛もうとしたり蹴ろうとしたりします』

阿秀に続いて紫揺の後ろに居た湖彩が言う。

『どうしてそんなことをするんですか?』

紫揺が振り向いて湖彩に尋ねる。

『気まぐれとでも言いましょうか』

『病気ではなく?』

『病気などとは遠い話。 元気すぎるから困っているくらいです』

『で、足が速いの?』

『ええ、ですがあぁぁぁー!!』

湖彩の声が叫びとなった。

他の馬の首を撫でてやっていた者たちが湖彩の目の先を見る。 阿秀の脇を走り抜け、あの馬に向かっている紫揺の後姿を。

湖彩と話していることで気を緩めていた阿秀がすぐに手を伸ばして紫揺を掴もうとしたが、あえなく空振りをしてしまい、すぐに追って走ろうとしかけたが、立てかけられていた箒に足を取られてしまった。 それに比べて紫揺は障害物があれば跳び越し、何に足をとられることもなく走って行く。

馬が紫揺に気付き上唇をめくり上げ歯を剥いた。

『紫さま!』

阿秀の呼ぶ声など、どこ吹く風。 馬にぶつかる寸前で足を止めた。

『こんにちは』

馬が紫揺に首を回した。 その顔を紫揺に向ける。
阿秀の足が止まった。

―――デジャヴ

阿秀の頭には北の屋敷の海岸で見た、ガザンが紫揺に跳びかかった時がフラッシュバックした。

のしかかった紫揺の上でガザンが頭を上下させていた。 その様子を後ろから目にした時には紫揺が喰われたと思った。 走り出そうとした時、紫揺とガザンは友達とセキから聞き、尚且つ、紫揺が喰われていたのではなく、ガザンにベロンベロンと舐められていただけだったから良かったものの、今回は友達どころか初めて顔を合わせているのだ。

『紫さま!』

阿秀が頭の中の囚われから解放されると一歩を出した。 すると

『いい仔ねぇ』

馬が紫揺に顔を摺り寄せている。

『・・・え?』 



阿秀が大きく息を吐いた。 紫揺を知ってから何度この息を吐いたことだろう。 もう吐くことは無いと思っていたのに。

「誰がこの馬に乗る?」

ついさっきまで紫揺が乗っていた馬の手綱を握る塔弥の手先を見て阿秀が言う。
紫揺がどの馬より気に入った馬。
『お転婆』 と名付けられていた馬の背に誰が乗る。


山の中に足を踏み入れた紫揺。

「ちゃんと覚えてるかなぁ・・・」

本領と繋がる洞まで行きつくことが出来るだろうか。 たった二往復しかしたことがない。 それも人の道がない山道。
そう漏らした時、マツリが空から跳び下りてきた。

「わっ!」

遅れてキョウゲンが肩に止まる。

「道が分かるか」

そう言うと背を見せ先を歩き出した。

「・・・多分分かる」

「多分か」

腹の立つことを言うと思うが、確かに多分なのだ。

「マツリはいつもフクロウに乗ってるだけじゃない。 知ってるっていうの?」

「当たり前だ」

ボォーっとキョウゲンの背中に乗っているわけではないらしい。

「いっつもフクロウの背中に乗ってるだけなのに、山の中を歩けるの?」

一応、体力面を心配して言っているが、言葉的にその気遣いはマツリには伝わらないだろう。

「・・・」

キョウゲンの背に乗ってるだけと言われて返事をする気も失せる。
だが紫揺はマツリの返事がないことなど気にしない。

「ね、リツソ君のこと―――」

「具合を悪くしたのか」

紫揺の声にマツリの声がかぶさった。

「は?」

マツリの声が少し小さい、聞き取れなかった。 マツリの横に並ぶ。

「なに?」

四方や澪引、シキ以外が己の横に立つなどと、コイツは何を考えているのかと紫揺を睨もうとしたが、目に映るのは紫揺の頭頂部だけである。 腰を折り顔を覗き込んで睨んでも間抜けな話しだろう。

「具合を悪くしたのか」

怒りも呆れも何もかもぐちゃぐちゃになった状態でもう一度同じことを訊ねる。

「何の話? いつの事?」

目を合わせたくない、まっすぐ前を向いたまま尋ねる。

(話の流れから分かるであろうがっ!)

それも紫揺自身が少し前に言ったことなのだから。 マツリが呆れたように眉根に皺を寄せる。

「紫が悪くなった時と先程領主に言っておっただろう」

抱っこしてもらったと言っていた。

「ああ。 あの時」

その時以外にどの時がある。 マツリが顔を投げたくなる。

「ちょっと色々あって」

色々とはどういうことか、そう訊こうとしかけたが紫揺が続けて言う。

「さっき、着替えて家を出る時に此之葉さんに聞いたんだけど、私の瞳が紫色になってたらしい。 だから正真正銘、シキ様にお訊きしたい」

紫の力を訊きたいから本領に行くと領主に言っていたのは、完全に取って付けた理由付けだと分かっている。 マツリが上手く誘導したからなのだから。 上手くなくても簡単に乗ってきただろうが、いとも簡単に。

(コイツ、今までに何度騙されてきたのか? それを学ばんのか? それとも騙されたことなどないのか? いや、騙されたことにすら気付いておらんのか?)

「なに?」

紫揺の頭頂部を見ていたはずが、いつの間にか紫揺が上を見ていて目が合っていた。

「・・・いや」

正真正銘とはな、と続けたかったが、そうなるとリツソの話に戻ってしまう。 顔を前に向ける。

「瞳が紫に?」

「自覚は無いんだけどね」

紫揺も前を向いた。

「どうしてそうなった」

「分からない」

「分からないでは済まん。 力の出し方がまだ分かっておらんのか。 その時何をしておった」

「えっと・・・ヒトウカの冷えを身体の中に入れてしまった人がいたから、それが治るといいなぁと思って手を添えて・・・」

紫揺からヒトウカと聞いた時に、ヒトウカを何故知っている、と訊きたかったが最後まで紫揺の話を聞く。
そして聞き終わると疑問を口にする。

「二つ訊きたいことがある。 まず一つ目。 何故ヒトウカを知っておる」

「北の領土に迷子ですーって形で入った時に、ヒトウカと会った。 ヒトウカの話は北の五色に聞いてた。 それで・・・二回? 三回? ヒトウカに会った、子供のね。 一度はヒトウカを抱きしめたけど、冷えにあたらなかったのは、子供のヒトウカだったからだろうってセノギさんが言ってた」

ドヘドを吐いている時と、ヒトウカを抱きしめた時のことは鮮明に覚えている。 だがあと一回でも会っているような気がするが、あの時にはすぐにヒオオカミが現れたのだ、ヒオオカミとごっちゃになって分からなくなってしまっている。

紫揺がセノギと言った。 セノギのことはマツリも知っている。

「どうしてヒトウカがおま・・・紫の前に現れた」

「そんなことはヒトウカに訊いて。 私が呼んだわけじゃないから」

シグロかハクロが知っているかと、この話しを終わらせる。

「ではもう一つ。 身体の冷えが治ると良いと思った。 手を添えた。 このどちらの時点で瞳の色が変わった」

「知らない。 あ、でもそうだなぁ・・・」

あの時の前後のことと、此之葉の言葉を考える。
治ると良いなぁ、と考えた時にはまだ黒の瞳だったはずだ。 それはハンがセノギの肩を借りてラウンジにやって来た時に、ハン一人を集中して見た時に思ったことだったのだから。

そしてハンがラウンジに入った時には、どうしても治したくて此之葉に封じ込めの解除が終わったら呼んでくれと言ったのだ。 ラウンジから出ても誰も瞳の色のことは言わなかった。

それに何より此之葉は癒している時に瞳の色が変わっていたと言っていた。 あの時、ラウンジに入って行った時も此之葉は紫揺の瞳を見ているはずであった。 だがその時からだとは言っていない。

「手を添えた時だと思う」

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 辰刻の雫 ~蒼い月~  第9回 | トップ | 辰刻の雫 ~蒼い月~  第11回 »
最新の画像もっと見る

小説」カテゴリの最新記事