大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

--- 映ゆ ---  第127回

2017年11月09日 22時27分47秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



『---映ゆ---』 第1回から第125回までの目次は以下の 『---映ゆ---』リンクページからお願いいたします。

   『---映ゆ---』リンクページ







                                        



- 映ゆ -  ~ Shou & Shinoha ~  第127回




『一に出会い 
呼び呼ばれ 
糸が触れあい 
名で結ぶ』

詠い終わると目を閉じ、一呼吸置いて渉を見る。 そしてゆるりと空を見て、語りとは別の口調で渉に分かりやすく滔々(とうとう) と話し出した。

「我がオロンガ村で女が一人居なくなった。 消えたようにいなくなった。 その女が居なくなる前、言っておった言(げん) がある」
セナ婆の砕いた語りが続いた。

「女は気付くとどこか知らない場所に立っておった、と。 その場所に居たのは、ほんのわずかの時であったらしい。 そしてそこで誰かと会ったようじゃ。
女はその誰かを忘れられず、もう一度その場に行きたい、会いたいと願った。 じゃが、いくつの夜を迎えて朝になってもその場所に行けなんだ。 諦めて忘れていた頃、一人で川に行くとその場所がまた目の前に現れた。 それが二度目じゃ」

まだまだセナ婆の語りとも言えない、渉に分かりやすく言う話が続く。
二度目の話は、 川に桶を入れて振り返ると女の行きたかったその場に居た。 前と同じ場所。 それが二度目。 二度目は一度目以上の時その場にいたが、逢いたいと願った相手には会えなかった。
三度目はカゴを編んでいる時。 家の中なのに風が吹いたことに気付いて編みカゴから顔を上げるとその場に居た。 
その三度目には、その場に居る事に喜び涙した。 涙を拭い前を見ると、もう元の場所に居た。

「その女がある日突然このオロンガから消えた」 空を見ていた目を渉に戻した。

「それって・・・」 渉がシノハを見た。

オロンガの女が消えたことを言おうとしているのではない。 オロンガの女が消えるまでの身にあったことを言おうとしている。 それはシノハが渉の元に来ていたことと通ずるからだ。

諦めたようにシノハが口を開いた。

「ショウ様と我は幼き頃、ショウ様の所で逢っています。 我はそれから2度ショウ様の所に行きました」 立ち上がりながらシノハが言う。

「どういうこと? それってなに!? シノハさんが居なくなるってこと!?」 心に闇の如き漆黒の不安が広がる。

渉の問いに顔を歪めシノハが頭を垂れる。

「娘、語りはまだある」 セナ婆が静かに続ける。


オロンガの女の語りは“才ある者” しか知らぬ霊(たま)の語りに見合う。
その“才ある者” の語り。


「一つの霊(タマ) が、どうしても叶えたいことがある。 広く濃く深く。
そのために霊を二つに分ける。 霊はどこかで男と女として同時に生まれる。 どこか・・・それは邂逅(かいこう)することのない所。 
二つの霊はそれぞれが、その叶えたい事に生きる。 男にしか叶えられないこと、女であるゆえに叶えられること。 すると一つの霊であるときよりも広く濃く深く叶えることが出来るからじゃ。 
じゃが、心(しん)の片隅で、己の片割れである霊を捜し求めてもいる。 一つに戻りたいと願って。
邂逅することなく分けられた霊が、出会うことなどない。 じゃが、不運にも邂逅することがある。 
霊が片割れの霊に会ったとき、互いにすぐ分かりあえると言う。 互いに惹かれあう。 元は一つじゃったんじゃからな」 そう言うと目を閉じ一つ息を吐き、僅かな時のあと語りを続けた。

オロンガの女はいつしか赤い玉を見つけていた。 女はその赤い玉を好み、いつも首から下げていた。 オロンガでは見ない赤い玉。 女は居なくなる前にその赤い玉のことを『呼び笛を受ける玉』 と言っていた。 
その赤い玉とは、片割れの霊が住んでいるところに咲いている高い木に成る硬い木の実だった。
そしてオロンガの女の片割れの霊はいつもその木の前に立っていた。 そこに居れば心安らぐからだ。 何故、心安らぐか。 その先に片割れの霊がいるからなのだが、その片割れの霊はそんな事を知らなかった、という事をセナ婆が語った。

(心安らぐ。 ・・・まさか磐座のことか?) 渉と共にセナ婆の話をじっと聞いていた奏和が反射的に思った。

渉の磐座に対する思いは信仰とも思えるが、渉が何某かを信仰しているなどという話は聞いたことが無い。
唯、幼いころから山の中に入ることは往々にしてあったことは確かだ。 カケルと二人で山の中に入ることもあったし、渉が父親に怒られると山の中に入って行く姿を見て奏和が追いかけると「山の中がいいの」 涙をこらえてそう言う渉の頭の後ろに手をやり、奏和の胸の中で泣かせてやったことは数知れずある。
それに日頃から「鳥の声も葉擦れの音も川のせせらぎも、木々から漏れて来る陽光も、全部好き」 そんな風に言っていた。
そして磐座に対しては「此処に来ると安心するの」 と言っていた。

(・・・渉) 奏和が唯々、語りを聞いている渉を見た。


「オロンガの女は見つけた赤い玉を珍しいと大切にしていたが、何故そこまで大切にしたいと思うのかを自分でも気付いておらんかった。
その赤い玉をなくせば、片割れの霊の所へ行かれんなどとは知る由もなかった。
何故ならその玉は互いの霊を結ぶもの。
赤い玉は片割れの霊のところから飛んできたもの。 どうやって飛んでくるのかは誰にも分からん。
赤い玉、女が言っておった『呼び笛を受ける玉』。 呼び笛が鳴れば玉を身につけている主を連れて元の場所、生まれた木に帰る。 あくまでも、そこに片割れの霊が近くに居るときにしか帰れんがな。
そして呼び笛はこのオロンガにはない笛じゃ。 清く清々しい音を出す笛」

(え? ・・・笛? 清く清々しい音? ・・・もしかして、磐笛の事か?)

「3度、呼び笛に導かれオロンガの女が木の元に行く。
4度目には呼び笛は要らん。 3度の呼び笛によってオロンガの女が呼ばれ、既に糸が触れあっておるからじゃ。 じゃが、玉は必要じゃ。 玉があるところに主がおるのじゃからな。 そして4度目からは片割れの霊がオロンガの女の元に来る。
そして互いの名を呼び、触れあっておる糸を結ぶ」

互いの名を呼んだ時のことを思い出す。 胸が鷲掴みにされたように痛かった。 セナ婆を見ていた視線をシノハに移した。


「木の元で逢いたいと願えば、片割れの霊はオロンガの女の元へ来られるようになる。 
縁が深まるという事は触れ合うこともある。 触れ合うことは心(しん)の隅にあったものを呼び起こす。 触れれば心の隅から一つに戻りたいとあった心の隅のものが身体中を巡る。 まだ小さな力の波じゃ。 じゃが互いはそんなことを知らぬ。 会いたいという思いから、いつも寄り添っていたいと思うようになる。 触れ合うことが・・・触れ合うことを重ねれば重ねるほどに、心の隅の想いが身体中を大きく巡り大波となって、寄り添うだけではなく、一つに戻りたいと、他に何も考えられぬと思うようになる。
互いが何もかも捨て大きく願った時に、それだけを願った時に大きく触れ合い、互いの身体は共に消える」

最後の言葉に奏和が目を見開いた。


「そうしてオロンガの女が消えた。 姿を消した2つの霊はわしらの目に見えぬところで一つに戻る」

ずっと語り続けていたセナ婆が大きく息を吐いた。

「セナ婆様・・・お疲れでは」 タム婆より若いといえど、それでも婆様。 トデナミが気遣わずにはいられない。

「ああ・・・何ともない」 一つ二つと深く息をする。

「ちょっといいですか?」 セナ婆の語りが終わったのだろうと踏んだ奏和。

皆が奏和を見た。

「その、シノハ・・・さん?」 奏和がシノハを見て、呼びにくそうにしながらも呼ぶ。

「はい」 顔だけを奏和に向けていたが、身体を真っ直ぐに奏和に向ける。

奏和より背は低いが、それは奏和の背が高すぎるからだ。 奏和に向き合った顔は実直な人柄が十分にうかがえる。 そして同じ男から見ても端整であった。


「石を持っていないか?」

「え?」


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« --- 映ゆ ---  第126回 | トップ | --- 映ゆ ---  第128回 »
最新の画像もっと見る

小説」カテゴリの最新記事