五感で観る

「生き甲斐の心理学」教育普及活動中。五感を通して観えてくるものを書き綴っています。

黒の奥行き

2007年01月27日 | 第3章 無意識の世界
20数年前、ニューヨークに住む従姉妹の家に3ヶ月居候し、マンハッタン中を歩き回り、美術、映画、劇場を見尽くした経験があります。
20代前半の頃です。

20代の方にとりましたら、そんな昔、とお思いでしょうが、この年齢になってくると、昔のことが表裏一体のように瞬間的に思い出し、まるで昨日のことのように思えるのが不思議です。
歳を重ねる毎に物忘れもひどくなり、痴呆になると、瞬間的に本当に5歳の自分にになったり、20歳の自分になったりする現象が起きることが、なんだかわかるような気がします。

さて、本題。

20数年前。現代美術が、面白くなってきたころです。作家のスケールも壮大なプロジクトで行なわれるようになり、美術に興味がない人でも、普段の生活の中で目にすることができるようになったのもその頃からだと認識しています。

マンハッタンのお隣、クィーンズの倉庫が建ち並ぶ街に、廃校となった学校があり、それに目をつけたプロデューサーが、世界中から、各国で活躍する現代美術家を呼び、そこをアトリエにして、数ヶ月~数年の単位で活動していただく。
そこに従姉妹と訪れた時の話です。
廃校の中をぶらぶら歩き、それぞれの広い教室で、作品を手がけている作家を眺めていました。

廊下からアトリエを覗くと、黙々と描いている作家が見えました。

アトリエが、美術館のような、設定になっているので、作家とのコミュニケーションも自由気ままでにできます。

中にはいるなり、真っ黒の画面が、私を飲みこむように迫ってきたのです。
「本当の黒」、瞬間的にそう思いました。衝撃的でした。
重ねたその先は見えないけれど、黒を重ねたその奥行きは底無しのように深い・・・。

墨絵の黒には幅があり、奥行きには時間と空気を感じます。

彼の作品をひとたび見ると、その余裕は許されません。素粒子の狭間も許さない、そんな体感に、鳥肌が立ち、身震いをしました。
そして、観た私の感情の怖さと同時に、観続けると見えてくる「見えない柱」に感動する情動が湧き上がってきたのです。素晴らしい表現力に二度の、鳥肌。

(西)ドイツ人のアーティスト、キーファーとの出合いでした。

それから、数年後、ベルリンの壁が崩壊。

作品のイメージとはまったく違う、穏やかな目をした方。
「僕は、ベルリン中心にいろんな国で、回顧展してるんだよ」みせられた本は、立派な作品集でした。

日本に帰国し、彼が注目されている有名な現代美術家だと改めて知りました。

ちなみに、キーファーが描いていた「黒」は、コールタール。
素材は無限です。表現も無限です。

若い頃受けた五感は、無意識に私の方向付けをします。

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コメント (3)
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