電車の車窓からも等々力競技場の最寄駅、武蔵中原に近付けば近付くほど雨脚が強くなて来ている事が良く分かった。だが雨脚が強くなればアウェーの Central Coast Mariners に少しでも有利になる、チーム力は劣るがフィジカルに上回る Mariners がフロンターレに近づく事が出来る。試合内容が面白くなる…と思った。
武蔵中原駅を降り、競技場に着くが更に雨脚は強くなる。向かうはもちろんビジター席側だ。 立見席では20人程度の黄色のユニフォームを着た人達が。早くも盛り上がっている。 “遠くからの御越しありがとうございます!!” と言う内容の場内アナウンスが響くと、更に彼らの気勢が上がった。
私も早速彼らの中に加わろうと“小道具”である ワールドカップ1974年大会の Socceroos のJonny Warren のレプリカを取り出して着る。するとすぐに何人かの Mariners サポ達が私の方に寄って来た。
“そのシャツはどこで買ったんだ? Warren を誰だか知っているのか?”
“勿論知っている。7年前に彼が書いた本を読んで以来彼のファンだ。前のワールドカップの前に亡くなって大変残念だ。このシャツはシドニーで見つけて買ったんだ。” “オーストラリアに来た事はあるのか?”
“何度も行った。 A-League の試合も何回も観た。昨年の Grand Final の決勝戦も観戦した。”
そう言って当時の新聞を取り出した。すると更に多くの人達が寄って来た。みな大喜びだった。私も嬉しかった。 あの試合は審判が完全に Jets 側に着いていた、最後のプレーは間違いなくハンドだ。 GK のVukovic には気の毒だった…てな話をした。 そしてその新聞に大きく載っていた当時 Jets のエースストライカーだったJoel Griffiths を指差し “こいつは Shit だ !! “と言うサポーターもいた。
一向に弱まる気配が無い雨脚の中、選手達が入場しキックオフを迎えた。 Mariners サポ達の殆どはもう“出来上っている” 前節ホームで 0-5 と惨敗した Mariners は下記の布陣を敷いた。
19 Simon Matthew
188cm/78kg
8 Dean Heffernan 7 John Hutchison 23 Adam Kwansik
186/81 179/78 179/76
17 Matthew Osman 2 Gumprecht Andre
183/75 177/75
4 Bojic Predrag 18 Alexsander Wilkinson 16 Nigel Boogard 15 Andrew Clark
180/75 187/85 188/88 180/74
GK 20 Vukovic Daniel
187/96
殆どの出場選手が180cm以上。 前節と比較すると出場停止だった Bojic Predrag と Simon Matthew をメンバーに入れ4人を替えて来た。 布陣も2トップから Simon のワントップにし2列目に3人並べ右サイドバックに Bojic が戻り前節はそこで起用された Heffernan が中盤に上がった。
ワントップの Simon は188cm の長身。昨シーズンは A-League 21試合に出場し11ゴールを挙げた。北京五輪ではサブメンバーだったが Archie Thompson が負傷し第三戦の Cote d’Ivoire 戦にベンチ入りを果たし73分から出場をした。
3月5日、Canberra で行われたクウェートとの Asian Cup 予選ではスタメン出場をも果たした。前節の川崎戦では累積警告で出場停止だった。 2列目左サイドの Heffernan は2006/7 シーズンのみだが Budesliga の 1FC Nurnberg に在籍した経験を持つ。クウェート戦ではベンチ入りを果たしたが出場機会は無かった。 ボランチの Gumprecht は1992年から10年間 Bayer Leverkusen をはじめドイツ、イタリアの8つのクラブを渡り歩き、シンガポール S-League の Singapore Armed Forces でも1シーズンプレー。帰国後も NSL でプレーするなどの経歴がある36歳の大ベテラン。 左サイドバックの Bojic は 2001年FIFA U-17 メンバーにも選ばれた選手。
CBの2人は共に長身だ。 Willkinson は187cm 2001年 FIFA U-17, 2003年 FIFA U-20 のメンバー。 188cm の Boogard も 2003年 FIFA U-17 大会のメンバー。右サイドバックの Clark は180cm の36歳の大ベテラン。
そしてGK がVukovic 。2005年にオランダで開催された FIFA U-20 ではメンバー入りするも正GK Adam Fedrici の影に隠れ日本戦を含めた3試合には出場機会はなかったものの北京五輪最終予選では6試合すべてにフル出場し出場権獲得に貢献。
しかし北京五輪の5か月前に行われた A-League Grand Final では終了直前に主審に手を出し謹慎処分を食らい、五輪もメンバーから外された。
その北京五輪でゴールを守ったのが Adam Fedrici と言う何とも皮肉な巡り合わせ。 オーストラリアでは Mark Schwarzer の後継者とも言われているが今年から始まった Asian Cup はインドネシア戦、クウェート戦共に Adelaide United の Galekovich にポジションを譲り、自身はベンチウォーマーに甘んじている。 今後も奮起に大いに期待したいところだ。
だがこの Vukovich をはじめ FW Simon そして Heffernan の中心選手に海外移籍の話がある事も事実だ…….
一方のフロンターレは前節CBだった伊藤が右サイドバックに回り村上が外れ井川が寺田とCBを組む事に。村上に替って井川が起用されたのは井川の方が身長が4cm 高いからかな? 私の注目はかつて愛する京都サンガでプレーした森勇介だった。
10 ジュニーニョ 174/67 9 鄭大世 181/80
11 ヴィトール 167/63 14 中村憲剛 175/67
29 谷口 182/73 18 横山 184/75
2 伊藤 183/74 13 寺田 189/80 4 井川182/75 19森 175/74
GK 1 川島 185/50
試合は開始早々、豪雨の中の重いピッチもなんのその、2分17秒には谷口のミドルが飛ぶなど川崎が攻め立てる。Mariners も3分11秒に Simon がチーム最初のシュートを放つが以降は防戦一方。5分、7分とヴィトールがサイドをえぐる。10分にはエリアの少し外から鄭が撃つがゴロのシュートは重いピッチにスピードは無くコースもGK正面。 11分には滑るピッチに足を取られた GK Vukovich が足を痛め、右腿にテーピングが施される。集中攻撃を浴びるのは避けられない。Vukovich の出来が試合を左右するので Mariners サポ達も不安か?
と思いきや殆どが紙コップを片手に気勢を上げている。
18分にはジュニーニョが右に流れ上げたクロスからヴィトールがシュートを放つがクロスバーの上。
Mariners はトップの Simon を残してほぼ全ての選手でゴール前を固める。ジュニーニョ、ヴィトールらの細かい切り返しにDF陣は翻弄され気味だ。21分43秒、久々に攻め上がった Mariners は右からのクロスに Simon がヘッドで合わせる。川崎サポーター席から悲鳴が上がったがノーゴール。 これは帰宅後テレビでチェックすると Simon のヘッドを川島が後逸したがボールはゴールラインを割れずに川島が掴んだシーンだった。雨が降っていなければこぼれ球はゴール内に転がりこんだか?
Mariners サポの一人が向こう正面の掲示板を指差し “あそこにリプレーは映らないのか?”と訊いてきたが“リプレーは映し出されるが恐らくホームチームのクライマックスシーンだけだと思う。”と答えた。 雨は更に強くなってきて視界を遮る。その上スタンドがピッチレベルと変わらないので数少ない Mariners 攻撃時にこちらからは良く見えない。 だがその後、Mariners の攻撃機会は更に減り、さっきの Simon のヘッドが前半最後のチャンスだった。
24分には中村憲剛が右サイドを突破しクロスを入れるがここは Wilkinson がクリアー。隣の Mariners サポに “あの14番はナカムラと言う名前で Celtic の Shunsuke Nakamura と同じ名前だがテクニックも同レベルだ。“と教えた。
彼は中村俊輔の事はよく知っているらしく、また前節の試合も競技場で観戦し No.14 の印象をよく憶えているとのこと。あと No.9 が我々を苦しめたと言っていた。
No.9 は鄭大世。彼は North Korea の代表選手でこの前のワールドカップ予選にも出場したと教えると、なるほどと頷いた。
25分を過ぎるとサポーターの一団が拡声器で音楽を流し出し、そのリズムに乗って踊り出した。 自分の応援するチームが劣勢なのにこうして試合を楽しむ彼らに周りの人も注目し同様に Gosford からやって来た他のサポーター達もそれを見て微笑んでいる。
30分にはエリアのすぐ外そしてゴール正面でFKを与える。川崎サポーター席からは “憲剛 Let’s Go !! “ の声援が飛ぶ。“彼らはなんと言っているんだ?”と訊かれたので “ Kengo Let’s Go と言っている。 中村憲剛はFKの能力も高いのでこう言うポジションで直接FK を得たら彼にゴールを狙うように suggestion する声援が必ず飛ぶ。“と教えた。 そのFKは壁の右をゴロで抜けてゴールラインを割ってしまった。そこに走りだすべくジュニーニョとのタイミングが合わなかったみたいだ。 すると踊っていた Mariners サポーター達からは大歓声が沸いた。
私の周りのサポーター達は川崎の統制のとれたコールに感心していた。 そしてそれをリードするリズミカルな太鼓の音にも。 ”日本は昔から欧州のサッカーに影響されていた。サポーター達もテレビ等で観た欧州のコールや応援歌をアレンジしオリジナルの応援歌、そしてコールを創っている。“と言うと本当に感心していた。
”日本はいつ頃から欧州のサッカーをテレビで中継していた?“との問いに
”今ほどでもないけど70年代から欧州サッカーの試合を放映する番組があった。今は Cable TV やPay per Viewでほぼ毎日 Champions League や世界のサッカーが楽しめる。ワールドカップも日本が初出場をした 1998年大会のずっと前から生中継があり多くの試合を見れた。“と話すと羨ましいとみな言っていた。
2007年に浦和 REDS が Sydney FC と ACL を戦った時に Sydney サポーター達は統制のとれた REDS サポーター達に感心していた。 ロスタイムの2分も過ぎようとした46分58秒、右サイドを突破したジュニーニョが上げたクロスはゴール前フリーのヴィトールに飛ぶ。完全にやられたと思った瞬間、ヴィトールのヘッドはゴールポストの左に外してくれた。頭を抱えるヴィトール。そしてホイッスルが鳴った。圧倒的に押されながらも前半は無失点に抑えたことからか Mariners サポーター達からは大きな歓声が上がった。
ハーフタイムを利用して Match Day Program を買いに出かける。 そして帰って来た時には多くの川崎サポーター達がそこにやってきて Mariners サポーター達と記念写真を撮っている。日豪のサポーター入り乱れみな大喜び。子どもたちもやって来た。
そして私はしばらく通訳の役目を買って出た。“どこから来たの?日本には何日いるの?オーストラリアからは何時間かかるの?どの選手が一番上手いの?” 間に入ってそんな質問を繋いであげた。 Mariners サポーター達も子供達に “君達はいくつだい?好きな選手は誰?どの選手が一番人気ある?”と問いかける。
ここに来た子供達はどんな英会話学校に通うよりもずっと役に立つ英語教育を受けたと思った。
後半が始まったが子供達の多くはまだ帰らない。すると開始30秒に川崎が先制ゴールを挙げる。開始早々攻めん込んだ川崎が左サイドでFKを得る。ゴール前に入ったクロスに鄭大世が飛び込む。GK Vukovich が反応良く一旦は弾き出したがこぼれた所をジュニーニョが押し込んだ。 まだ子供達と話している間の出来事だった。スクリーンにリプレーが映されたので先ほどスクリーンの事を尋ねた Mariners サポにスクリーンを指差し教える。 しかし彼が見たかったのはこう言うシーンじゃ無かった事は間違いない。
だが後半の Mariners は攻勢に出て来る。特に右サイドの Heffernan が良い。1対1でも対等に渡り合えている。55分にはその Heffernan から絶妙のクロスが上がるがここは川島がパンチングで軌道を変える。もしコースが変わっていまかったら飛び込んだ Simon、 Hatchson のいずれかが触っていただろう。
そして60分中盤でセカンドボールを拾った Clark が相手DFの裏にボールを出すとそこに走り込んだ Simon が伊藤を振り切り放ったシュートはGK川島を破りそのままゴールネットを揺さぶった。 ついに Mariners が川崎からゴールを奪った。サポーター達は大喜び。そしてサポーター達の“宴”にも拍車がかかる。
しかし気勢が上がるのはサポーター達だけではなくピッチ上の選手達もそうだった。ボランチの Gumprecht Osman が高い位置を取りだしたのでセカンドボールが拾える様になった。2列目の Heffernan が前線に良いロングボールを入れて来る。 そこに長身のSimon、 Hutchson らが飛び込んでくる。
川崎は18日の大宮戦から中2日で試合をしているせいかやや動きが落ちて来たか?それとも前半は守って後半勝負との Mariners ベンチからの指示か。 67分には Klark からのクロスに Simon が寺田とせりながらヘッドを放つ。69分には右サイドの Gumprecht からのボールをSimon がヘッドで折り返したところに Kwansik がスライディングシュートを放つ。
その後は審判も Mariners に味方する。70分に65分にヴィトールに替って投入されたレナーチョが右サイド突破を試みる。そこに Boijic がマークに入る。先に手を上げたのは Boijic だったがその手を振り払ったレナーチョのプレーにホイッスルが鳴り、思わず鄭が抗議に。プレー再開後、谷口が Simon のマークに入った所にまた笛が鳴り、その直後にも森が Boijic へのチャージをファールにとられる。この一連のジャッジに森が何か言ったか?イエローが出される。そのFKから Kwansnik が中に入れたころに Boogard が迫るがその前にGK川島がキャッチ。 前半とは打って変わっての Mariners の連続攻撃だった。子供達は“寺田と空中戦で競るなんてすごい。”と感嘆していた。
しかし次のゴールを挙げたのは川崎だった。 81分、ゴール前に上がったCKは一旦は跳ね返されたが谷口が拾って中に入れるとレナーチニョが頭で合わせて追加点を挙げた。 マークに入った Wilkinson と入ったばかりの Huke Shane が重なってしまった。
しかし後半に入っての Mariners を見ると決して同点に追いつく可能性は充分にある。84分に Mariners ベンチは DF Clark を下げて3バックにし前節スタメン出場の 192cm の Macellister を入れ Simon と2トップを組ませる。 85分には Bojic からのクロスに Macellister が飛び込むがここは寺田がクリアー。 ロスタイムに入って Kwansik のクロスに再び Macellister が飛び込むが今度はキーパーチャージを取られた。何とか同点ゴールを。引き分けなら Mariners は次のラウンドに進む可能性がまだまだ残されるのだが……..
3分あったロスタイムを過ぎてもスコアーは変わらず、ホームの川崎がACLベスト16 入りを決めた。 これで Mariners の決勝トーナメント進出はかなり苦しくなった。しかし 試合後も Mariners サポーター達の気勢は止まらず、子供達の多くがそれに追随していた。 私は何人もの人たちと握手や記念撮影そして抱擁を交わし、
“必ず Gosford に来てくれ。 そして今度はここで Mariners の試合を見よう。”とみんなに言われた。 そしていつまでも踊っている集団も......
雨脚はまだまだ激しいままだった。
Gosford から来たサポーター達はみな試合には負けたけど日本での良い思い出を持って帰国をしてくれたと思う。そして日本にJ リーグと日本人持つ hospitality がある事をいつもまでも覚えてくれるだろう…….
それにしても雨がよく降ったなぁ….
あと、応援スタイルですが、川崎の応援団としては、オリジナル、でなければ、南米式だ、と言うでしょう……。
子供たちの通訳をしていただき、ありがとうございます。
次回はそちらから直接お願いしますわ