世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
陽気なM一家(続々)
この日の海はローアンバーがかった灰色。青い空の下ではきっと白く見えそうな砂の色は、曇り空の下では火山灰のような煤色に見える。
「チマルさんがヨーロッパの海を見たいと言っていたから、わざわざ来たんだよ」と相棒が言う。
うんうん、ありがと。灰色い海、大好き。
海岸をどこまでも歩いて宿へと向かう。相棒は海の風景なんてどこも同じだと言うが、これがバルト海だと思うと感慨深いものがある。
「僕、海の水舐めてみるね」
相棒はなぜか海水を舐めたがる。で、
「バルト海、舐めたよ! 海なのに、塩っぱくないよ、バルト海!」……相棒、心の俳句。
石を積み上げただけの防波堤が、ずっと彼方まで海へと延びている。歩いて先端まで行けるらしいのだが、時間がないし、潮が満ちると沈みそうだしで諦めた。
パルヌの砂浜は、海からちょっと離れると湿原になっていて、美しい受付嬢から貰った地図にカモの絵なんか描かれているところを見ると、海鳥や水鳥などの野鳥の棲息地なのらしい。
勇んで砂の丘に登って見渡してみるが、一面の草以外何も見えない。ぼうぼうに生い茂る緑の叢草の細い葉がいっせいに風になびき、白や黄や青紫の可憐な花々が横ざまに揉まれて、ふるふると震えている。浜辺の野草花って、高山のと同じ色してんだな。
チドリのようなカラスのような、黒と灰との海鳥が、波打ち際を気取った足つきで歩いている。海も空も砂浜も灰色いので、白いカモメよりもこの鳥のほうが今日の風景にしっくりと馴染む。
さて、パルヌの海岸には「女性専用ビーチ」なるものがあって、ガイドブックにも注意するよう書いてある。まあ、私は間違って入り込んでしまっても問題ないんだけれど、相棒のほうはちょっとばかり緊張している。
のろのろと後ろから歩いてくる私を、相棒、砂浜にヌッと立った看板の下で立ち止まって待っている。看板の文字を読んでみると、レディース・ビーチ、とある。
えええ? 女性ビーチって、柵とかで囲ってあるわけじゃないんだね。これじゃ、この看板の位置から丸見えだね。
To be continued...
画像は、パルヌ、旧市街の外れ。
Previous / Next
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
陽気なM一家(続)
観光案内所の受付嬢は赤毛の美人。まあ、ラトビア人やエストニア人て、概ねみんな美しいんだけれど。
途端に相棒の顔が大いに緩む。相棒は、嫌忌する人種以外の人間の前では大抵、常にニコニコと笑っている。これが、若い女性や少女の前でとなると、さらにニッコニコ~ッ! に緩む。
が、顔が緩いからって、頭も緩いと思って舐めてかかると、とんでもないしっぺ返しを食らうことになる。ので、人は見かけで判断しないほうがよろしい。
受付嬢に地図を貰ってからも、東洋人観光客の特権でいろいろと食い下がる。多分行かないだろうのに、コンサートは? サーカスは? と尋ねる。あまり要りそうにないのに、パルヌのスペシャルビニールバッグを貰ったりする。
観光案内所のすぐ横に建つのは、ロシアンな教会。うーむ、パルヌの僧院!
思わず喜ぶ私に、
「チマルさん、どうしてそんなにロシアの葱帽子の教会が好きなの」と相棒が茶々を入れる。
そうなの、ロシアの教会ってカラフルで、玉葱みたいな形の屋根がキノコの塊のように群らがってポコポコ突き出ているから、愉快なんだ。
旧市街は小さいので、ほどなく歩き尽くせる。町歩きの後は海岸へ。途中、さっきとは別のロシアンな教会が建っている。喜ぶ私に相棒がまた茶化す。
「チマルさん、嬉しそうだねえ!」
ところが、タリン門まで来ると……
この門、何だかチャチだね、張りぼてのおもちゃみたい。首をかしげる私に、相棒が売り込む。
「古い城門なんだよ!」
それでもうなずかない私に、相棒、本気になってタリン門を弁護する。
「はるばるタリンから海をやって来た商人たちが、くぐった門なんだよ! 由緒あるんだよ!」
……人にはそれぞれ、好みってもんがある。ゴメンね、タリン門。
To be continued...
画像は、パルヌ、エカテリーナ教会。
Previous / Next
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
陽気なM一家
初夏にエストニアを旅行したときの話をば、少し……
ラトビアのリガで夏至祭を見物した翌日、長距離バスでエストニアに向かった。バルトの国々じゃ、鉄道よりもバスで移動するのがメジャーな模様。
バスが国境を越え、エストニアに入った途端、道路脇の車が、止まれ、と合図してきた。運転手がバスを止めながら、ラトビア語でアナウンスする。どやどやと入ってきたのは国境警備員たちで、つまりID審査に来たわけ。
国境なのだからパスポートコントロールは当然なのだけれど、やたらに時間がかかる。
国境越えではいつも緊張し、そのたびに肩透かしを食らってきた東洋人二人。今回の旅行でも、フィンランドからエストニアへの入国、エストニアからラトビアへの入国ともに、いとも簡単なチェックで済んできたこともあって、この頃にはもう、パスポート見せたら、ハイ終わり、わーい、また一つ国境越えたー、行った国増えたー、という感覚までに気持ちが緩んでいた。
で、厳しい顔で念入りにパスポートを調べている警備員(ちなみに女性)に、EU入国のスタンプでも探しているのかと勝手に合点した相棒、ニコニコ顔で横から口を出そうとすると……
「構わないで!」
即座の、有無を言わせない無表情な制止。
……これくらい厳しいのが本当なんだろうな。国境越え、怖。
到着したのは、エストニアのパルヌ(Pärnu)という町。
長距離バスが苦手な私は、降りたときにはもうヘロヘロ。出くわしたカモメに挨拶する元気もない。
相棒は下調べしておいたラトビア家庭料理の店に連れていってくれた。スープと煮込み料理と黒パンと、ケーキとコーヒーの、私たちの旅じゃ最豪華なランチ!
私たちって普段、店で食事しないんだよね。受難の後に降って湧いたようなこの僥倖。うう、落涙。耐えた甲斐があったよ。
パルヌはエストニアの“夏の首都”と呼ばれる保養地なのだが、夏至祭のこの時期はまだ静閑としたもの。このくらいの人出が私にはちょうどいい。
To be continued...
画像は、パルヌ、メインストリート。
Next
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
次ページ » |