世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
オランダ絵画によせて:部屋のなかの風俗






東京への美術館ハシゴ旅行。特に好きなわけじゃないが、やっぱり「フェルメール展」も観に行った。ふと耳に入った、すれ違ったカップルの会話。「あれじゃ、フェルメールは、ただの呼び物だよねー」……
確かに副題のとおり、実際には“デルフト派展”なんだけれど。でもね、寡作の画家フェルメールの絵が7点(だっけ?)も来てるんだから、「フェルメール展」て銘打ってもいいんじゃない。急遽、来日できなくなった「絵画芸術」は、以前、神戸で観たことがあるので、私は気にならないし。
ヨーロッパ絵画史では、よく、画家たちが活躍した地名ごとに括って、「なんとか派」という名がついていたりする。まあ、歴史ってそういうもんなんだろう。
で、デルフト派(Delft School)というのは、概ね、17世紀半ば、オランダ・バロックの黄金時代に、デルフトで活躍した画家たちを指す。
当時オランダは、スペインからの独立を果たし、海上貿易によって繁栄、イギリスに覇権を奪われるまでの半世紀のあいだ、その富とともに市民文化をも発展させた。
デルフトもまた、そうした成功を勝ち取ったオランダ小都市の一つ。その栄華はわずか二十数年にすぎなかったが、その間、馬鹿高い人気画家フェルメールに到る、多くの画家たちを輩出した。
いわゆるデルフト派の特徴としては、市民の家庭生活の描写を主眼として、室内や中庭、教会内、街路や広場などの情景を取り上げたものが目立つということ。
室内風俗画というジャンル自体は、デルフト派以外も描いている。が、居酒屋や農家、詰所などで、旅人や農夫、兵士らが娯楽(賭博や喧嘩も含めて)に興じる絵が多い。庶民的なのだが、どうも騒々しくて、所帯じみている。
対して、デルフト派の場合、大抵は中流家庭が舞台。洒落た床や絨毯、ステンドグラスの窓、壁には絵が掛かっている。調度も衣装も洒脱で上品。同じ旅人や兵士にしても、デルフト派の絵ではとてもオシャレ。
遠近法の効いた空間に、自然光の処理。それらが、オランダ・バロックの堅実な写実で、こまやかに描写されている。穏やかな光に満ちた室内は、とても静か。そんな舞台に、垢抜けた人物たちが、会話を交わしたり、家事をしたり、手紙を書いたりと、何ということもない日常の行為に携わっている。
妙に優雅で、物語めいた、ほどよい生活感。
こうした画題についても、まず思い浮かぶのはフェルメールなのだが、彼と同時代に活躍し、彼に影響を与えたという、ピーテル・デ・ホーホ(Pieter de Hooch)のほうが、デルフト派の一般的な画家という感じがする。
この画家はよく、解説で、フェルメールに先行する、が、フェルメールの境地には到らない、フェルメールの天才ぶりを際立たせるための画家として、引き合いに出されている。可哀相なデ・ホーホ。私は彼の絵の素朴さ、いいと思うけどな。フェルメールはデ・ホーホのような、母子の絵は描かなかった。
また、レンブラントの画風をデルフトに伝え、若いフェルメールやデ・ホーホにも広く影響を残したという、薄幸ハンサム画家、カレル・ファブリティウス(Carel Fabritius)。レンブラントの最も有能な弟子だったのに、デルフトの火薬庫の大爆発で、工房も絵も画家自身までもぶっ飛んでしまった。
彼の絵も、十数点しか残っていないので、必見。
画像は、デ・ホーホ「デルフトの中庭」。
ピーテル・デ・ホーホ(Pieter de Hooch, 1629-1684, Dutch)
他、左から、
デ・ホーホ「カップルとオウム」
デ・ホーホ「母」
マース「レースを編む女」
ニコラース・マース(Nicolaes Maes, 1634-1693, Dutch)
マース「林檎をむく若い女」
ファブリティウス「歩哨」
カレル・ファブリティウス(Carel Fabritius, 1622-1654, Dutch)
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