世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
シスレー、印象派の典型






印象派の絵を観ていて、シスレーが出てくると、相棒がからかう。
「ほら、シスレー先生だよ」
印象派画家のなかでは、私はブーダンと、シスレーがダントツに好きなのだけれど、相棒はピサロのほうが好き。同じく印象派の風景画家で、モネほど目立たず、ともにその昔コローに心酔し、画風も似通っている。そんなシスレーとピサロは、いつも、何かと比較される。
で、ピサロと比べたシスレーは、大雑把、地味、単純、没個性、マンネリ、……と、ひどい言われよう。
別にいいのダ。私は、雑なシスレーが好きなんだから。
アルフレッド・シスレー(Alfred Sisley)は、パリの裕福な実業家の家に生まれた。でもイギリス人。家業を継ぐためにロンドンに留学したのに、画家を志すようになる。
パリに戻ると、アカデミズムの画家グレイルのアトリエで絵を学び、そこでモネやルノワール、バジールといった、のちの印象派画家たちと知り合う。当初はコロー風に、ぼやっと描いていたシスレーだが、友人たちと戸外で制作するなかで、明るく伸びやかな自然の光を描くようになる。
父親から十分な援助を得、貧しい画友たちに援助を惜しまなかったシスレーなのに、普仏戦争で財産すべてを失い、突如、絶望的な貧困生活に陥る。晩年、フランス国籍を得たくても、資金不足でできず終まい。
後半生、他の印象派画家たちが次々と成功していくなか、同じく印象派の創始に参加したシスレーだけが、最後まで、金にも名声にも縁がなかった。印象派で唯一、生前成功できなかった画家。
それでも地道に、黙々と、イル・ド・フランスのセーヌ河畔の村々を転々としながら、その風景を描いた。生涯、ただただセーヌの水辺と空を、画風の起伏も冒険もないまま、ほとんど一人で描き続けた。……シスレーの描いたセーヌの村々には、私、全部行くつもり。
印象派の父と言われたピサロは、印象派の典型的画家は誰かと問われ、迷わず「シスレーです」と答えたという。あっぱれ、シスレー先生。
シスレーの絵は単純で素直。大雑把で自由。晴朗で平穏。構図はほとんど水と空とに二分されている。モティーフもちょっとしかない。色彩は、自然の見せるそれから逸脱しない。すべてに気取りがなく、気負いもない。
自然に同調し、自身も決して背伸びをしなかったシスレーは、好きな画家は? と訊かれて、「自然を愛し、自然を深く想っていたすべての画家です」と答えたという。あっぱれ、シスレー先生。
画像は、シスレー「ポール・マルリの洪水」。
アルフレッド・シスレー(Alfred Sisley, 1839-1899, French)
他、左から、
「サン・マルタン運河」
「森の道」
「ルーヴシエンヌの小道」
「雪のルーヴシエンヌ」
「モレの粉引き水車」
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