ギリシャ神話あれこれ:純潔のヒッポリュトス(続)

 
 こうなるとパイドラは、恋が成就しないばかりか、自尊心にも傷がつく。立場だって危ない。
 彼女は、ヒッポリュトスが父王テセウスに訴え出ることを怖れて、先手を打つ。つまり、自ら寝室の扉を破り、衣装を引き裂いて、泣きながら、ヒッポリュトスに暴行された、とテセウスに訴えたわけ。
 男の純潔なんて信じることのできない浮気なテセウスは、若妻のこの嘘偽りの訴えを本気に取って、すっかり息子の所業と信じ込んで激怒する。身に憶えのないヒッポリュトスは必死に弁明するが、テセウスは聞く耳を持たない。それどころか、息子ヒッポリュトスが滅ぼされるよう、ポセイドン神に祈りまでする。

 さて、ヒッポリュトスが馬車を駆って海辺を走っていると、突然、波間から荒々しい牡牛が現われる。もちろんこれは、海神ポセイドンが送り込んだもの。
 恐怖に騒ぎ立てる馬たちが岩に車を打ちつけて、車は粉微塵になる。地面に叩きつけられたヒッポリュトスは、手綱に絡まれて、狂奔する馬たちに引きずられてしまう。

 瀕死のヒッポリュトスが王宮に戻り、いよいよ死ぬという間際に、アルテミス神が現われて彼の無実を語る。……アルテミス、ちょっと登場するのが遅すぎる。
 一同の悲嘆のなか、ヒッポリュトスは死んでしまう。自分の罪を怖れたパイドラも、自ら縊死した。

 真相を知ったテセウスは、妻と息子を失い、悔恨のどん底へと落ち込むだけだった。……自業自得、相変わらずバカヤローなテセウスである。

 画像は、カバネル「フェードル」。
  アレクサンドル・カバネル(Alexandre Cabanel, 1823-1889, French)

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