されば悲しきアホの家系(続々……………々々々々)

 
 が、そんなことの意味など分かるだけの頭も視野も持たないのが、二条の家の人間だ。特に、キンキン声の末妹の叔母は、うるさく、しつこくまくし立てる。
「日本はええで。マミーも京都の文化くらい知っとかなあかんで。そやないと、国際人とは言えへんさかいな。なあ、一度連れて来てえな。うち、マミーに習字を教えたるさかいに。ロスにも、京都の街みたいな高いビルディングあるんか? マミーの好きな歌手は誰や? やっぱり山口百恵か?」
 気の毒なロスの伯父は、例によって肩をシュラッグする。

 ……この末妹の叔母は、デブでオカメな上にアホでヒスで、関わり合いを持たずにいるだけで人生何割か得するような人種だ。この叔母の無知と無神経は相当なもので、例えば、私が初潮を迎えたときに、祝いの品として本気で、キレイにラッピングしたタンポンを贈ってくるくらいなのだ。
 
 ところで、この従姉マミーは結局、一度も日本に来たことがない。日本語を喋ることすらできない。アメリカの言葉を話し、アメリカの食生活をし、アメリカの文化を学び、アメリカの男性と結婚した。
 私は、でっぷり太ったマミーと、同じく太った夫君、そして飛び切り可愛いハーフの赤ちゃんが写った写真を、ロスの伯父に見せてもらったことがあるきりだ。

 二条の家の人間は、決して京都の文化を誇りに思っているわけではない。彼らはただ、近くに二条城があることや、祇園祭が催されることが自慢なだけだ。茶道も華道も舞踊も知りはしない。史跡に興味があるわけでもない。
 京都の名物だからという理由で、生八つ橋「おたべ」を「世界一美味しいお菓子」を評するように、ただ同じ理由で、舞妓を「世界一の美女連」と評する。そして、着物の着付けができる自分たちを、ともすれば、同じ着物を着て京都の街を歩く舞妓のようだと、誇らしげに思っているのだ。 

 To be continued...

 画像は、W.M.チェイス「日本の着物を着た少女」。
  ウィリアム・メリット・チェイス
   (William Merritt Chase, 1849-1916, American)


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