世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
オランダ絵画によせて:静寂の空間
ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)と言うと、日本じゃ有名で人気もあるが、私は別に特に好きというほどでもない。が、日本にフェルメールがやって来ると、やっぱり観に行く。大阪の難波以南に行くと体調が崩れてしまう私には、天王寺の「フェルメールとその時代展」は拷問に等しかったっけ。
フェルメールの描いた絵の数は少ないから、画家の全作品をナマで観た割合について言えば、私のなかで、フェルメールの順位は高いと思う。
フェルメールの人気の一つは、彼が謎めいた画家だからかも知れない。経歴はほとんど知られておらず、生涯に30数点しか残さなかった寡作の画家。習作やデッサンも一切残っていないとか。
初期の歴史画のいくつかは、デルフトの壊滅的な火薬庫の爆発とやらで吹っ飛んでしまったらしい。この爆発では死者も出たくらいだから、かなりの大惨事だったんだろう(カレル・ファブリティウスという、才能ある画家も死んでしまった)。
フェルメールと聞けば思い浮かぶ室内風俗画とは、一風雰囲気の異なる、「真珠の耳飾の少女」のモデルは誰なのか。最晩年近くに描かれた「信仰の寓意」が、なぜあんなに大仰で、ぎこちないのか。……いろいろと疑問は尽きることがない。
生涯デルフトを離れたことがなかった市井の画家で、15人も子供を持つ子沢山。絵は本業じゃなかったという説もあるらしいが、趣味で描いてたんなら上手すぎる。
が、生涯、家計は火の車で、死後には破産しているから、やっぱり画家が本業だったのだと思う。
フェルメールの人気には、絵そのものの魅力もあるのだろう。フェルメールは大抵、左から光の射す室内で、中流家庭の日常の、何気ない行為に携わっている1~2人の人物を描いている。
オランダらしい、堅実な写実による質感の処理。光が踊っているかのようなきらめきと反射による、その質感の変化。この光や大気の絶妙な印象と、計算された、簡潔ながらもインパクトのある構図とで、静謐な、調和した、自己完結的な空間を作り出している。その空間を垣間見せるような、見る側の視点を意識した演出も加わる。
主色は黄、青、灰色で、そこに細かい白点をハイライトに並べる。関連は知らないが、確かウィレム・カルフという、絢爛豪華な食卓画を描く画家も、同じように点描でハイライトをつけて、光のきらめきを表現していた。
確かに、一種独特の、不思議な魅力がある。
最近の研究では、フェルメールは眼前の光景をそのまま描いているのではなく、カメラ・オブスキュラという、当時の一種の写真機器を利用して、そこから見える光景を描いているのだとか。
何かの番組で、フェルメールの絵を再現した室内を、この機器を通して見たことがあるけれど、ホントに、光の印象や、カメラ視点による遠近の歪みが、フェルメールの絵そのままに映っていた。
画像は、フェルメール「音楽の稽古」。
ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer, 1632-1675, Dutch)
他、左から、
「天文学者」
「レースを編む女」
「水差しを持つ女」
「絵画芸術」
「デルフトの眺望」
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