元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「蠢動 しゅんどう」

2013-11-23 07:04:41 | 映画の感想(さ行)

 本格派時代劇としては物足りない出来だ。少なくとも、監督の三上康雄が心酔するという、小林正樹監督の諸作に比べれば見劣りする。ただし「最後の忠臣蔵」とか「桜田門外ノ変」とかいった昨今の腑抜けた作品群よりはいくらか上だ。しかも、小林正樹の「切腹」と同じく現代に通じる風刺性を獲得していることもポイントが高い。その意味では観る価値はある。

 享保年間。山陰の因幡藩に、剣術指南役として松宮なる男が幕府から派遣されてくる。この太平の世に武術指導者が必要なのかと訝る家老の荒木だが、やがて松宮が藩の内情を探るためにやってきた隠密らしいことを察知する。藩の隠し財産を幕府に知られると、取り潰しの危険がある。荒木は悩んだ末、剣術師範の原田とその弟子の香川の関係性に目を付け、これを利用して松宮の謀殺を図ろうとする。

 武士道とは正反対の私利私欲に満ちた汚い世界に足を取られる主人公達と、彼らを待つ過酷な運命を容赦ないタッチで描く三上の演出は、確かに小林正樹の影響を色濃く受けている。画面は清涼かつストイックで、これ見よがしな映像ギミックもない。静的な芝居が目立つ中盤までの展開と、ラスト近くの斬り合い場面とのコントラストは素晴らしい。

 だが、クライマックスの山中での立ち回りは、積もった雪で足を取られて登場人物達がうまく動けないという設定を勘案しても、あまりにも下手な殺陣である。もっと段取りを詰めるべきであった。

 さて、本作の時代設定は8代将軍の徳川吉宗による享保の改革の実施時期である。吉宗は数々の施策を打ち出した気鋭の政治家として今では人気の高い政治家であるが、実はこの改革は幕府の財政再建政策に過ぎない。彼は年貢の収納方法を従量課金から定額制に移行させ、実質的には増税政策を採用した。

 この映画で描かれる幕府隠密は各藩が隠し持っていた稲作地を調べ上げようとしているが、それを課税対象と見なしてその分を上納金にさせようというのが幕府の狙いだ。理不尽な増税路線が大手を振って罷り通った末、質素倹約が合言葉となり消費が激減。それまで好調だった景気は落ち込み、江戸の街も閑散となったという。まるで橋本政権時の消費税増税による不況到来と一緒ではないか。

 その失敗例があるにもかかわらず、政府はまたも消費税率を上げることを決定した。実業家でもあった三上監督だからこそ、この“改革”とか“財政再建”とかいうスローガンの中身の無さを映画のモチーフとして取り入れたと想像する。

 低予算の映画なので人気俳優などは出てこないが、それでも若林豪に目黒祐樹、中原丈雄、栗塚旭、そして若手の脇崎智史といった地味だが力のあるキャストが集まっている。特筆すべきは原田役の平岳大の快演で、二世俳優として色眼鏡で見られることを跳ね返すほどの存在感を見せている。それから、ほとんどBGMの無い作劇ながらクライマックスで和太鼓の連打が挿入されるあたりの効果は絶大であった。

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