元・副会長のCinema Days

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「罪深き少年たち」

2024-07-14 06:28:03 | 映画の感想(た行)
 (英題:THE BOYS)警察の不祥事を描いた実録映画は、最近の日本映画では「日本で一番悪い奴ら」(2016年)ぐらいしか思い浮かばないが、韓国製の本作はその迫真性と感銘度において印象を強烈なものにしている。細かい部分を突っ込めば瑕疵はあるのだが、この作品のパワーはそれを補って余りあると思う。各キャストの好演も見逃せない。

 1999年、全羅北道の参礼(サムレ)にあるウリスーパーマーケットで強盗殺人事件が発生。決定的な証拠が見つからず捜査は難航すると思われたが、程なく地元の警察は近所に住む3人の少年を犯人として逮捕し、事件は一応の終結を見せた。ところがその翌年、その強引な遣り口で“狂犬”の異名を持つ敏腕刑事のファン・ジュンチョルのもとに、真犯人に関する情報が寄せられる。



 ファンが当時の捜査内容を調べてみると、確かに不審な点が多い。特に少年の一人はロクに自分の名前も書けない知的障害者であり、到底重大な事件を引き起こす者とは思えない。やがてファン刑事は、警察と検察の暗部を知ることになる。韓国で実際にあった“参礼ナラスーパー事件”を下敷きに練り上げられたドラマだ。

 とにかく、腐敗した警察上層部と検察の描き方が強烈だ。ロクな証拠も無いまま暴力で少年たちを犯人に仕立て上げた当時の捜査陣は、迅速な犯人逮捕を評価されて昇進している。さらにはファン刑事の孤軍奮闘ぶりを踏み潰すかの如く、手段を選ばない妨害工作を仕掛けてくる。この事件が本当に解決したのは、事件から16年も経った2015年なのだ。かつての少年たちは刑期を終えて出所しており、しかも彼らの面倒を見ているのはウリスーパーの犠牲者の娘である。彼女も3人が犯人とは思えず、アフターケアを買って出ているのだが、この展開は泣かせる。

 まあ、どうして3人が濡れ衣を着せられたのか、その真相が明かされていないのは不満だし、真犯人の一人が結局どうなったのか分からないのも欠点だろう。しかし、世の中の不条理に敢然と立ち向かうファン刑事たちの勇姿や、クライマックスの再審の場面における盛り上がりを見せつけられると、どうでも良くなってくるのも事実。

 社会派作品には定評のあるチョン・ジヨンの演出は力強く、最後まで作劇が弛緩しない。ファン刑事に扮するソル・ギョングのパフォーマンスは良好で、男臭さと優しさを兼ね備えたキャラクターを演じきっていた。ユ・ジュンサンにチン・ギョン、ホ・ソンテ、ヨム・ヘランら脇のキャストも万全の仕事ぶり。公開規模は小さいが、本年度のアジア映画の収穫だと思う。
コメント
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