元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「あんのこと」

2024-07-13 06:27:46 | 映画の感想(あ行)
 これは評価出来ない。実際に起こった事件に着想を得て作り上げたシャシンらしいが、とにかく脚本がお粗末すぎる。こんな有様ではメッセージ性も社会性もあったものではない。それどころか煽情的な仕掛けばかりを前面に出すことによって、題材自体の深刻さが伝わらなくなっている。プロデューサー側としては、作品のコンセプトから考え直すべきではなかったか。

 2010年代後半、売春や麻薬の常習犯である21歳の香川杏は警察に検挙される。彼女はホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らしているが、子供の頃から母親に虐待され、小学4年生から不登校となり、12歳で母親から売春を強要されていた。担当刑事の多々羅保はそんな彼女の境遇を見かねて何かと面倒を見るようになり、彼の友人でジャーナリストの桐野達樹の助けもあって、杏は新たな仕事や住まいを手に入れることが出来た。しかし、折からのコロナ禍によって彼女の勤務先は閉鎖。多々羅や桐野とも容易に会えなくなる。



 まず、多々羅の造型がデタラメだ。いかにも“それらしい”身なりと、紙巻タバコを人前で遠慮会釈無く吸っている様子からして、完全に時代錯誤である。さらに彼がヨガ教室の経営に関与しており、またそれは“下心”があっての所業だというのは呆れる他ない。桐野は結局何をしたいのか分からず、終盤近くには存在感が限りなくゼロに近くなる。杏の母親はいかにも憎々しいが、描き方が表面的で単なる“記号”としての扱いだ。

 後半、杏がそれほど親しくも無い近所の若い主婦から赤ん坊を押し付けられ、面倒を見る羽目になるというくだりは無理筋の極み。また都合良く杏が母性本能を刺激されるとか、いったい何を考えてこんな絵空事の話をデッチ上げられるのかと、観ていて途中から面倒くさくなってきた。

 確かに、今や人口の6人に1人が相対的貧困とされている日本の深刻な状況は、映画の題材として取り上げることは意義がある。しかし、本作のように単に主人公が遭遇する不幸を脈絡も無く繋げるだけの展開では、何の問題提起にもなっていない。監督と脚本を手がけた入江悠の力量には疑問符が付き、もっと別の人選が必要だった。

 主演の河合優実は確かに頑張ってはいるが、それは“想定の範囲内”に過ぎない。そもそも、こういう役柄は彼女に合っていないのではないか。個人的には、不動産会社のCMに出ていた時のような(笑)ナチュラルな持ち味の方を映画で見てみたい。刑事役の佐藤二朗と桐野に扮する稲垣吾郎は目立ったパフォーマンスは見られず。河井青葉や広岡由里、早見あかりといった脇のキャストも印象に残らない。

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