元・副会長のCinema Days

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「座頭市物語」

2024-07-19 06:28:11 | 映画の感想(さ行)

 昭和37年製作の、大映による人気シリーズの記念すべき第一作。今まで観たことは無かったが、先日BSでオンエアされていたのでチェックしてみた。驚いたことに、後年続く当シリーズの諸作とは違い、この映画では大掛かりな立ち回りのシーンは無い。主人公が超人的な剣の腕前を披露するのも数えるほどだ。ならば面白くないのかといえば、それは違う。これ一本で屹立した存在感を獲得しており、見応えたっぷりだ。

 江戸時代後期、目が見えないながら居合抜きの達人である座頭市は、下総国を根城にしている飯岡助五郎一家の客人となる。彼は偶然、肺を患う浪人の平手造酒と知り合い意気投合するが、平手は助五郎と対立する笹川繁蔵一家の用心棒だった。両勢力の関係が険悪化すると共に、2人は成り行きで運命的な対決へと導かれていく。

 講談等の演目としてよく知られる「天保水滸伝」の筋書きの中に、座頭市のキャラクターを押し込めるという荒技を敢行していながらあまり違和感が無いのは、さすが手練れの脚本家だった犬塚稔の仕事ぶりではある。さらに、その頃作られた時代劇としては画期的だったと思われる身障者差別に対する批判や、男性優位主義への苦言などが挿入されているのは見上げたものだ。

 そして何より、ヤクザ組織の縄張り争いの有様を通じて戦いの無意味さを強調しているのは天晴れである。飯岡組と笹川組の抗争など、当事者たちにとっては重大事なのかもしれないが、端から見れば関東の一地方での小競り合いに過ぎない。どちらが勝とうが、世の中の大勢は変わらないのだ。座頭市と平手造酒との一騎打ちを含めて、戦いが終わってしまえば残るのは虚しさだけ。ラストでの市は厭戦的な気分を隠そうともしない。いわば反戦映画としての側面をも併せ持つ、骨のある作品と言えよう。

 三隅研次の演出は斬り合いの場面こそシャープでありながら、大半はカメラをあまり動かさず静的な長回しをメインとしており、これも映画自体のカラーをよくあらわしている。主演の勝新太郎のパフォーマンスは万全。彼以外にこの役をやれる者はいない。平手造酒役の天知茂をはじめ、万里昌代に島田竜三、中村豊、真城千都世、三田村元など脇の面子も良い。牧浦地志のカメラによる緊迫感のあるモノクロ映像と、伊福部昭の音楽も言うこと無しだ。

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