元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サン・セバスチャンへ、ようこそ」

2024-02-04 06:07:21 | 映画の感想(さ行)
 (原題:RIFKIN'S FESTIVAL )ウディ・アレン監督作としては、特段目新しいことをやっているわけではない。いつも通りの展開だ。そもそも、高齢の彼に新たな路線を打ち出す余力は(まことに失礼ながら)無いと思う。ならば本作は評価に値しないのかというと、そうでもない。長年映画界で仕事をしてきただけに、往年の名画に対する思い入れは人一倍だ。そのあたりが窺えるだけでけっこう楽しめる。

 ニューヨークの大学で映画学の講義を受け持っているモート・リフキンは作家としての顔を持っているが、そちらはさっぱり売れない。そんな彼が映画の広報の仕事をしている妻のスーに同行して、スペイン最大の映画祭であるサン・セバスチャン国際映画祭に行くことになる。スーの役割は新進気鋭のフランス人監督フィリップのプロモーションを務めることだ。



 冴えないオッサンのモートンに対し、スーは色香は十分残っているイイ女である。案の定、彼女はフィリップと懇ろな関係になる。失意で体調も優れないモートンが足を運んだのが、友人に紹介された地元のクリニック。ところが担当医師のジョー・ロハスは思いがけない美人だった。舞い上がったモートンは、何かと理由を作り出してそのクリニックに通い詰める。

 ウディ・アレンの映画に決まって登場するのは、監督の分身とも言える講釈ばかり並べ立てるインテリぶった野郎だ。本作ではモートンがそれに該当するのだが、彼の言動と“末路”はほぼ予想通り。意外性の欠片も無い。しかしながら、モートンが夢の中で体験する“昔の名画の世界”は、かなりウケた。

 フェデリコ・フェリーニの「8 1/2」をはじめ、オーソン・ウェルズの「市民ケーン」、ジャン=リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」、イングマール・ベルイマンの「仮面 ペルソナ」などの巧妙なパロディ映像が次々と現われるのは、懐古趣味と言われるかもしれないが、それだけで嬉しくなってしまうのだ。さらには、モートンが昔の日本映画に関してウンチクを披露するくだりは大いに納得出来る。

 バスク自治州のスペイン有数のリゾートタウンであるサン・セバスチャンの風景は美しく、ヴィットリオ・ストラーロの流麗なカメラワークも相まって観光気分が存分に味わえる。主演のウォーレス・ショーンをはじめ、ジーナ・ガーション、ルイ・ガレル、エレナ・アナヤ、セルジ・ロペスというキャストも万全で、クリストフ・ヴァルツが意外な役柄で出ているのも楽しい。W・アレン御大はあと何本映画を撮れるか分からないが、今後もマイペースでフィルモグラフィを積み重ねて欲しいものだ。

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