元・副会長のCinema Days

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「スイッチ 人生最高の贈り物」

2023-12-24 06:10:36 | 映画の感想(さ行)
 (英題:SWITCH)ストーリーは完全に一昔前のスタイルで、開巻当初はこのベタな設定には正直“引いて”しまいそうだと危惧したが、実際はかなり丁寧に作りこまれており、結果として気分を良くして劇場を後にすることができた。主題やコンセプトがどうあれ、語り口とキャストのパフォーマンスが良好ならば見応えのあるシャシンに仕上がるものなのだ。クリスマスの季節にぴったりの韓国製ハートウォーミングコメディである。

 売れっ子男優のパク・ガンはソウルの一等地にある高級マンションに居を構え、夜な夜な若手女優との情事を楽しむという優雅な独身生活を送っていた。12月24日の夜、歓楽街でマネージャーのチョ・ユンと遅くまで飲んだ後、乗り込んだタクシーの運転手から“別の人生を考えたことがあるか?”と聞かれる。テキトーに受け答えしていたパク・ガンだったが、翌朝、目が覚めるとそこは見知らぬ家だった。



 おまけに過去に別れた元恋人のスヒョンが妻として振舞っており、2人の幼い子供までいる。俳優であることは同じだったが、“元の世界”とは違って売れない舞台役者であり、たまにテレビの再現ドラマに出る程度。対してチョ・ユンは演技派俳優として脚光を浴びていた。パク・ガンは“この世界”でも自身が有名スターであることを皆に知らしめるため悪戦苦闘する。

 過去に幾度となく目にしたような、いわゆる“入れ替わりネタ”のバリエーションであり設定には新味は無い。ところが周到な作劇により高い訴求力を獲得している。まずパク・ガンとチョ・ユンが同じ劇団員出身で、共にメジャーな舞台を目指していたことが大きい。つまりは主人公の成功は失敗と紙一重の話だったのだ。

 だから“入れ替わり”の実質的な度合いが(確かに境遇は違うが)極端なものにはならず、ストーリーが絵空事になることを回避している。そして人生の価値は富でも地位でも名声でもなく、そばに誰がいるかで決まるという、普遍的ではあるが誰もが失念しがちなことを平易に表現ようとしているあたりが巧みだ。

 脚本も担当したマ・デユン監督の仕事ぶりは申し分なく、ドラマ運びはスムーズだしギャグの振り出し方も堂に入っている。主演のクォン・サンウは好調で、マッチョではあるがあまり上等とは言えない性格の男が、イレギュラーな事態に遭遇してみるみるうちに本来の実直さを取り戻していくあたりのパフォーマンスは感心する。

 チョ・ユン役のオ・ジョンセも良いのだが、特筆すべきはスヒョンに扮するイ・ミンジョンだ。かなりの美人で、演技力もある。聞けば彼女はイ・ビョンホンの嫁さんらしく、ビョンホンに関連したお笑いネタを繰り出すあたりはニヤついてしまった。子役2人も達者だ。くだんのタクシー運転手の“正体”が明らかになる幕切れは鮮やかで、まさしく“クリスマスの奇跡”を現出させてくれる。

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