元・副会長のCinema Days

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「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」

2024-05-27 06:07:26 | 映画の感想(さ行)
 これは面白い。個人的には今年度のベストテン入りは確実だと思えるほど気に入ったが、観る者を選ぶ実録映画でもある。ここで描かれている題材や時代背景、登場人物たちに少しでも思い入れのある観客ならば、たとえ映画自体が気に入らなくても作品のパワーと作り手の熱い思いは感じ取れるだろう。だが、それらに興味が無かったり世代的に外れている者だったら、まるで受け付けないシャシンかと思う。しかし、たとえそうでも一向に構わない。現時点でこれだけのものを見せてくれれば満足するしかないのである。

 80年代初頭。ピンク映画の巨匠と言われた若松孝二監督は、名古屋にミニシアター“シネマスコーレ”を開設する。そこの支配人に任命されたのは、かつて東京の文芸坐に籍を置いていたが結婚を機に地元名古屋に戻ってビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治だった。木全は劇場の運営をめぐって若松と幾度となく衝突するが、それでも如才なさを発揮して経営を支えていく。やがて映画館には金本法子や井上淳一などの若い人材が身を寄せるようになる。



 80年代といえば、私が日本映画に興味を持ち始めた頃だ、ビデオの普及により映画館の斜陽化が巷間で取り沙汰されてはいたが、一方では従来型の劇場とはコンセプトを異にしたミニシアターがブームを起こしていた。そして何より、才能豊かな若手監督たちが次々と一般映画を手掛け、邦画界は活況を示していたのだ。通説では日本映画の黄金時代は昭和30年代だと言われているが、80年代は別の意味での邦画の最盛期だった。若松監督も、そのムーブメントを察知したからこそミニシアターを立ち上げたのだろう。

 当時活躍していた新進監督たちの名前がポンポン出てくると共に、旧態依然たる従来型の興行様式との確執も効果的に描かれる。最も面白いと思ったエピソードは、学習塾大手の河合塾のプロモーション・フィルムの演出を井上淳一が担当するくだりだ。映画に対する情熱は人一倍だが、現在に至っても大した実績を残せていない井上が、この時ばかりは師匠の若松から叱咤激励されながらも目覚ましい働きを見せたことは本作を観て初めて知った。そして本作の監督も井上自身だ。映画人生の大半が不遇でも、この映画を完成させたことだけで彼の名前は残ると思う。

 若松に扮する井浦新はアクの強さ全開で、彼の代表作になることは必至だ。井上を演じる杉田雷麟や金本役の芋生悠は好調。それに有森也実、田中要次、田口トモロヲ、田中麗奈、竹中直人といった豪華なゲスト陣が華を添える。唯一残念だったのが、木全に扮しているのが東出昌大であること(苦笑)。もっと演技の上手い役者を持ってくれば映画のクォリティはさらに上がったはずだ。なお、タイトルからも分かるとおり、この映画は白石和彌監督による2018年製作の「止められるか、俺たちを」の続編だが、前作の存在を失念しそうになるほど本作のヴォルテージは高い。

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