元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「新しい家族」

2024-06-16 06:23:58 | 映画の感想(あ行)
 (英題:PEASANTS)82年ソビエト作品。女流監督の手による映画にも関わらず、主に男性側の視点からドラマが綴られるという、玄妙な味わいを持つシャシンだ。同年のベルリン国際映画祭にて審査員奨励賞を獲得しており、丁寧に作られたホームドラマの佳作であると思う。本作に限らず旧ソ連時代には見応えのある映画が少なからず作られていたが、近年はロシア映画界のめぼしいニュースは無い。国際情勢が関係しているのは当然ながら、この状況はいつか好転して欲しいものである。

 ムルマンスク州の鉱山都市ニッケルに住む中年男パーヴェルは、父親からの急な電報で故郷に呼び戻される。何でも、パーヴェルのかつての婚約者ナースチャが亡くなったらしく、残された14歳の娘ポリーナはパーヴェルとの子だという。さらに、その後のナースチャの交際相手の間に出来たパーヴリクと、彼女に引き取られた孤児ステパンという2人の息子もいた。父親から3人の養育を託されたパーヴェルはニッケル市に戻るが、恋人ポリーナは愛想を尽かして出て行ってしまい、彼は仕方なく3人を男手一つで面倒を見るハメになる。



 家族を作るということにまるで関心の無かったマッチョな男が、思いがけず子持ちになり家庭の味を知るようになるという筋書きは、まあ誰でも予想が付くだろう。事実、本作はその通りに話は進んでいくのだが、この“男の自立”の裏には映画には出てこない“もう一人の主役”が存在するというのが面白い。それは、パーヴェルのかつての恋人ナースチャだ。

 ナースチャはポリーナを一人で育てただけではなく、次の男とも別れて子供を引き取り、加えて生活が苦しいにも関わらず言語障害気味の子を養子として迎え入れ、3人とも良い子に育ててきた。こういう彼女の健気なはたらきがあったおかげで、パーヴェルの成長があるのだ。徹底した男親の話でありながら、その裏に女性の影響力の大きさを組み入れるという、かなり巧妙な“手口”である。

 イスクラ・バービッチの演出は派手さは無いが堅実で、各キャラクターの内面を丹念に綴っていく。主演のアレクサンドル・ミハイロフは、見かけは偉丈夫ながら優柔不断な性格の主人公をうまく表現していた。イリーナ・イワーノワにミハイル・ブズイリョフ・クレツォ、ピョートル・クルイロフの3人の子役も達者なところを見せる。終盤の、思いがけない子供たちの窮地をパーヴェルが身を挺して救うという展開も秀逸で、それに続くハートウォーミングな幕切れも印象的だ。
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