元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「泣かないで」

2024-06-24 06:29:01 | 映画の感想(な行)
 (原題:ONLY WHEN I LAUGH )81年作品。あまりにもメロドラマっぽい邦題に腰が引けてしまうが、80年代の演劇界および映画界において活躍したニール・サイモンのシナリオによるシャシンで、この作家が得意とする非凡なキャラクターの造型とハートウォーミングな筋書きが冴えている。第54回アカデミー賞にて3部門でノミネートされ、第39回ゴールデングローブ賞では最優秀助演女優賞を獲得している。

 アルコール依存症のためでロングアイランドの療養施設に入所していた舞台女優のジョージアは、6年の入院を終え退所した。出迎えたのは10年来の友人であるジミーとトビーだ。その夜、別れた夫のデイヴィッドから電話があり、彼と共に家を出ていた娘のポリーが1年間ジョージアと同居したいというのだ。



 また、脚本家でもあるデイヴィッドは新作舞台の「笑う時だけ」(←これが本作の原題)への出演を彼女に依頼する。久しぶりに娘との生活を送ることになったジョージアだが、仕事に臨む不安によって酒に手を出そうとするたびに、しっかり者のポリーから一喝される毎日だ。やがて迎えたトビーの誕生日パーティーの席で、ジョージアは思いがけないニュースを知ることになる。

 普通、アルコール依存症というのは自分の苦しみを和らげるために飲酒頻度が高くなる状態を指すらしいが、ジョージアの場合は他人の悩みを共有するために24時間ずっと飲み続けてきたという設定が面白い。つまりは、飲酒によって人格は損なわれておらず、実はとても好ましい人物なのだ。

 オードリー・ヘップバーンの首筋に憧れているという同性愛者のジミーや、元ミスなんとかで、いつも自分の美貌の衰えだけを気にしているトビーのキャラクターも面白い。そして何といっても、イマドキの女子ながら本当は両親のことを誰よりも気に掛けているポリーの描き方が秀逸だ。映画は後半から二転三転するが、いつも他人の苦しみばかりに気を遣ってきたジョージアが、彼女なりに人生の転機を迎えるという幕切れは、大いに共感できる。

 グレン・ジョーダンの演出は派手さは無いが堅実で、ドラマは最後まで弛緩することはない。主演のマーシャ・メイスンはいつもながら横綱相撲的な安定感で、この気の良いヒロインを十分に表現している。ジェームズ・ココにジョーン・ハケット、デイヴィッド・デュークスら脇の面子も申し分なく、ポリーに扮するクリスティ・マクニコルの存在感はかなりのものだ。デイヴィッド・M・ウォルシュのカメラによるニューヨークの下町風景と、デイヴィッド・シャイアの音楽も及第点である。
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