元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「女優は泣かない」

2023-12-18 06:08:37 | 映画の感想(さ行)

 元々はCMやテレビドラマのディレクターである30歳代の監督による作品なので、観る前は軽佻浮薄で底の浅いシャシンなのかという危惧もあったが、そうでもなかったので一先ず安心した。もっとも、正攻法の作劇ではなく多分に狂騒的なテイストもある。だが、ドラマの根幹はけっこう古風で万人にアピールできる。あまり気分を害さずに劇場を後にした。

 スキャンダルで業界から“干されて”しまった女優の園田梨枝は、彼女の人間像と再起に迫るという触れ込みのドキュメンタリー番組に出ることになり、撮影のために故郷の熊本県荒尾市に10年ぶりに帰ってきた。ところが現地に派遣されたスタッフは、テレビ局のバラエティ班ADである瀬野咲だけ。どうやら落ち目の女優のために予算は割けないらしい。

 しかも咲はテレビ的なウケを優先し、事実は二の次三の次のヤラセ演出を強行する。そんな彼女に辟易した梨枝を迎えたのが、疎遠になっていた家族と幼なじみの猿渡拓郎。家出同然に上京した梨枝を、姉も弟も歓迎はしない。加えて父親は難病で入院中。咲はそんな状況も、何とかドキュメンタリーのネタにしようと画策する。

 咲のキャラクターは、ハッキリ言って鬱陶しい。確かにテレビ屋らしい調子の良さを強調した造形ではあるのだが、長く見ているとウンザリする。ところが実は彼女は映画監督志望で、この仕事をこなせばデビューの機会が与えられる(かもしれない)という事情があり、必要以上に力んでいたのだ。

 梨枝は身勝手な女に見えながら、本当は家族と地元のことを気に掛けている。家族の側も梨枝に冷たいようで内実は思い遣っている。この“一見○○だが、実は○○”というパターンが脚本も担当した有働佳史の得意技らしいが、その“実は○○”の部分がプラス案件であるのが好ましい。もちろん逆のケースもあり得るが、本作みたいな内容ではこれで良いと思う。

 後半は人情話が中心になるものの、前半とのコントラストが利いていて大して違和感もなく見せ切っている。梨枝に扮する蓮佛美沙子は快調で、不貞腐れていながらも純情ぶりを垣間見せるあたりは感心する。咲役の伊藤万里華は「サマーフィルムにのって」(2021年)の頃よりは大分演技がこなれてきた(とはいえ、まだ精進は必要。今後に期待したい)。

 上川周作に吉田仁人、三倉茉奈、浜野謙太、宮崎美子、升毅といったキャストも悪くない。そういえば、私は熊本市には住んだことはあるが、荒尾市には縁がない。何となく“福岡県大牟田市の隣町”といった印象しかない。ならば本作は地元の魅力がフィーチャーされているのかという、そうでもないのが残念だ。ただし、方言の扱いは手慣れていると思った。

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