元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「関心領域」

2024-06-21 06:22:22 | 映画の感想(か行)
 (原題:THE ZONE OF INTEREST)かなりの高評価を得ている作品で、私もこの非凡すぎる設定に大いに興味を惹かれ、期待して鑑賞に臨んだのだが、どうにも気勢の上がらない結果に終わってしまった。端的に言って、これは“策に溺れた”ような印象を受ける。題材は良いのだから、もう少し訴求力のあるモチーフを繰り出すべきだったと思う。

 第二次大戦中、ホロコーストや強制労働によりユダヤ人を中心に多くの人々を死に至らしめたアウシュビッツ強制収容所の隣で、平和な生活を送るルドルフ・フランツ・フェルディナント・ヘス所長一家の日常を描く。イギリスの作家マーティン・エイミスの小説を原案にした作品だ。



 まず困惑したのが、冒頭のタイトルバックに不穏なサウンドが鳴り響き、スクリーンが数分ブラックアウトしたこと。スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」(68年)の、エンドタイトル後の真っ暗な画面に音楽だけが流れるパートを思い出してしまったが、あれは映画の余韻を深めるという意味で効果はあった。対してこの映画は、確かに不穏な空気感は醸成されたのかもしれないが、放送事故に無理矢理付き合わされたような不快感だけが残ってしまう。

 本編は複数の隠し撮りに近い状態に置かれた固定カメラが捉えた映像を繋げたようなものが中心に進むが、確かにドキュメンタリータッチは強調されるものの、プラスアルファの効果があったとは思えない。塀を隔てた場所では惨劇が展開されてはいるが、ヘス邸では平穏無事な時間が流れていく。なるほどそれは大いなる戦争の不条理であるし、糾弾されるべきだとは思うが、映画自体はその構図から動くことは無い。

 主人公の親戚が訪ねてくるが、ただならぬ雰囲気を感じて一泊だけして去って行ったり、収容者を物扱いして効率的な“処理”を話し合ったりするナチスの連中の描写など、いろいろとネタを繰り出しては来るのだが、いずれも在り来たりで不発。果ては終盤に突然“現代の場面”を挿入してヘス所長の当惑を象徴的に扱ったりと、何やら“底が割れる”ような組み立て方で、あまり良い気持ちはしない。

 監督のジョナサン・グレイザーの作品は初めて観るが、元々はCM作成やミュージック・ビデオのディレクターとして名を馳せた人物らしい。そのせいか、主題よりも映像的ギミックを優先させたようにも思われる。とはいえヘス役のクリスティアン・フリーデルは好演だし、妻のヘートヴィヒに扮するサンドラ・ヒュラーは「落下の解剖学」(2023年)よりも存在感はあった。それらは評価したい。
コメント
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