元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ションベン・ライダー」

2018-07-01 06:41:52 | 映画の感想(さ行)
 83年作品。通常、映画の質は主に脚本(筋書き)で決まり、次に重視されるのがキャストのパフォーマンス、そして演出という順位である。監督の個性、ましてや作家性という名のケレンなんかは、下位に置かれても仕方がない。しかし、ごく一部に作家性だけで映画自体を成立させてしまう“荒業”がサマになっている演出家が存在する。本作の監督である相米慎二はその最右翼であり、この映画は彼のフィルモグラフィの中では最も先鋭的なものだ。その意味では大いに存在感のあるシャシンだ。

 ジョジョ、辞書、ブルースの3人の中学生はクラスのボスであるデブナガにいつも痛い目に遭わされていた。我慢も限界に達し、今日こそリベンジを果たそうと決心したその時、3人の目の前でデブナガは誘拐されてしまう。実はデブナガの父はシャブの売人をやっており、自らのシノギを横取りされそうになった横浜のヤクザ極龍会の山と政が犯行に及んだものである。



 だが、事件が大々的に報道されるに及び、組はこの一件を収めるべく、中年のヤクザ・厳兵に山と政を連れ戻すように依頼。くだんの3人組と知り合った厳兵は、協力してデブナガを救出すべく山と政のアジトがあると思われる熱海に向かう。さらに当地でちょうど教員研修に来ていた担任のアラレ先生も巻き込み、事件は思わぬ方向に転がり出す。

 冒頭の“360度長回し”をはじめ、この監督の特徴であるワンシーン・ワンカット技法が大々的にフィーチャーされているが、今回はそれだけではなく、技巧を先行するあまりストーリーが解体していくという、倒錯した構図が展開している。

 クローズアップが極端に少なく、各キャラクターの顔かたちさえ認識することが出来ない。だが、登場人物の見分けが付かなくなる事態には、決してならないのだ。ではどうやって出てくる連中を判別するかというと、それは“アクション”に尽きる。

 スリムな体格の中学生3人組は、もっぱら縦方向の動きに終始する。対してのっそりとした厳兵は、横方向にしか動かない。デブナガに至っては、アクション自体に乏しいのだ。これら縦横の移動が交錯して目を見張るスペクタクルが現出するのが、運河に浮かぶ木の上でのチェイスシーンである。もはや誰が誰を追いかけているのか分からず、画面コンテンツが不規則運動している現象を延々と見せられる。光と影と対象物、それらをフィルムに残すだけという、映画の原初的な“機能”をトレースしているといえよう。

 ならば無機的な映画なのかというと、そうではない。この“アクション”が思春期の只中にいる主人公3人の“生理”と見事にシンクロし、甘酸っぱい青春ものとしてのスタイルを確立している。

 3人組に扮するのは、永瀬正敏と河合美智子、そして坂上忍である。たぶん監督からシゴかれて死物狂いで“アクション”に徹しているのだと思うが、この体験が後年の彼らの“財産”になったことは論を待たない。厳兵役の藤竜也、アラレ先生を演じる原日出子、そして桑名将大や木之元亮、財津一郎、村上弘明、寺田農、倍賞美津子などキャストは実に多彩で見応えがある。

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