元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ボブ・マーリー ONE LOVE」

2024-06-14 06:24:00 | 映画の感想(は行)

 (原題:BOB MARLEY: ONE LOVE)これはとても評価できない。対象に鋭く迫ったような形跡が見当たらないのだ。その理由としては、本作が今は亡きレゲエの大物ミュージシャンであるボブ・マーリーの“身内(親族など)”が監修を担当していることが挙げられる。故人の“身内”としては、リアリズムに徹して短所も含めたボブ・マーリーの人間性をえぐり出すという方法論は、避けたいに決まっている。結果、極めて微温的なシャシンに終わってしまった。

 1976年、独立から十数年しか経っていないジャマイカでは、政情が安定せずに2大政党が対立していた。国民的アーティストであるボブ・マーリーは不本意ながらその政治闘争に巻き込まれ、同年12月に狙撃事件に遭ってしまう。それでも彼は間を置かずに全国規模のコンサートに出演し、身を守るためにイギリスに移住。その後も次々と意欲作を発表し、ワールドツアーも成功させる。だが、その間もジャマイカの社会情勢は良くならず、内戦の危機も囁かれるようになる。ボブはそんな状況に対して一肌脱ぐべく、活動を開始する。

 映画は、主人公がどうしてレゲエにのめり込んだのか、作曲のインスピレーションはどこから来るのか、そして名が売れる前にどういう紆余曲折があったのか、そんなことは何も言及しない。映画が始まった時点で彼はスーパースターだし、カリスマ性があり、そして病により世を去るまでが思い入れたっぷりに描かれるのみ。せいぜいが、幼少期のボブが炎に囲まれているシーンがが思わせぶりに何度か挿入されるのみだ。これでは何のモチーフにもなり得ていない。

 かと思えば、ラスタファリがどうのとか、エチオピア皇帝がどうしたとか、ボブの信奉者にしか分からないようなネタが前振り無しに出てきたりする。ならばコンサートのシーンは盛り上がるのかと言えば、これが大したことがない。既成の音源に合わせて各キャストが動き回っているだけで、高揚感が圧倒的に不足している。

 レイナルド・マーカス・グリーンの演出は平板で、ここ一番のパワーに欠ける。主演のキングズリー・ベン=アディルをはじめ、ラシャーナ・リンチ、ジェームズ・ノートン、トシン・コール、アンソニー・ウェルシュといった面子は馴染みは薄いし演技面でも特筆出来るものは無い。こういう映画を観ると、同じく有名ミュージシャンを主人公に据えた「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年)がいかに訴求力の高い作品だったのかを痛感する。
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