(原題:WINTER'S BONE )作劇面ではとても万全とは言えないが、作品の舞台設定と主演女優の存在感により何とか見応えのある映画に仕上がったという感じだ。
ミズーリ州の貧しい山村に住む17歳のリーは、心を閉ざして口もきかない母と幼い弟妹の面倒を見ながら、その日その日を食いつなぐ生活を送っている。しかし、逮捕された父が裁判への出廷を無視して行方をくらましたことから、家と土地を失うかもしれない危機に直面。タイムリミットは1週間。リーは父親を探すために奔走するハメになる。
私は当初本作のアウトラインを知ったとき、おそらくヒロインは父親を求めて長い旅に出るのだろうという、ロードムービーのような展開を期待していたのだが、実際は近所をぐるぐる回るだけなので完全に拍子抜けだ。しかも、村の中で事が足りるのならば、どうして父親がいなくなった時点で主人公は彼を探さないのか、そんな疑問も残る。
ドラッグのディーラーだった父親は、どうやら組織の掟を破って当局側にタレ込んだために落とし前を付けられたらしいことが薄々分かってくる。さらに真相を嗅ぎ回るリーに対して周囲の者は拒否反応を示し、彼女はリンチに遭ったりもする。だが、最初はつれない態度を示すリーの叔父がいつの間にか味方になってしまうのは、何とも御都合主義だ。さらに、父親の安否を証明するのが本人の骨の提出であるというのも、唐突に過ぎるモチーフである。デブラ・グラニックの演出は丁寧だとは思うが、ここ一番のパワフルさには欠けているようだ。
以上のような不満点を承知しつつそれでも本作を評価したいのは、冒頭に書いたようにまずドラマの背景が興味深いからだ。ホワイトトラッシュと呼ばれる白人貧困層が集まる山奥の寒村。都市部の発展から置いて行かれたような寂れようだが、実を言えば貧しい白人達は都会だろうと田舎だろうと数多く存在しているのだ。
貧困のあるところには必ず犯罪が存在する。舞台になった村は、丸ごと麻薬取引に取り込まれている。この寒々とした光景は、閉塞感に満ちたアメリカ社会の暗喩であることは言うまでもない。
そして主演の新鋭ジェニファー・ローレンスは間違いなく逸材だ。硬質なキャラクターは、このロクでもない世の中に立ち向かい、自分自身でケリをつける逞しいヒロイン像にぴったりである。この映画オスカー候補になったが、それも頷ける。今後もチェックしていきたい俳優だ。