元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

清水義範「迷宮」

2011-11-01 06:23:52 | 読書感想文
 若いOLの惨殺事件が起こって世間は大騒ぎしている頃、ひとりの記憶喪失の男が病院で“治療”と称してこの事件の報告書や新聞記事などのマスコミ報道などを読まされてゆく。どうやら彼はこの事件に関与しているらしいのだが、文書を読めば読むほど謎が深まってゆく。果たして事件の真相は如何に・・・・というサスペンス編。

 本の帯に“とてつもない一冊”という惹句が踊っていたが、実際読むと大したことはない。まあ、一人称で綴られる話がその者に関して真実であるかどうかは分からないという、ちょっと捻った見方は面白いのかもしれないが、ミステリー好きの読み手としてはその程度ではトリックのうちに入らない。

 途中でこの事件を追う小説家が登場することにより、話は別の方面に振られるといった変化球も披露してくれるが、底はすぐに割れるしあまり効果的だとは思えない。

 清水義範の筆致はさすがに達者で、冒頭部分から読者を引き込み、そのままラストまで引っ張るという実力はかなりのものだと思わせるが、プロットの作り込みがそれほどでもないので、読後の満足感は小さい。

 清水の著作はあまり読んだことはないが、どちらかといえば“軽量級”との印象を受ける。本作はシリアス路線で迫ってみたという意味では目新しいが、もっと推敲を重ねて欲しかったというのが本音だ。
コメント
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