元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「恋の罪」

2011-11-28 06:23:21 | 映画の感想(か行)

 園子温監督の前作「冷たい熱帯魚」ほどの破壊力はないが、それなりに楽しめる映画であることは確かだ。カタギの生活を送っていた女がインモラルな“裏の顔”を持つようになるという設定は、ルイス・ブニュエル監督の「昼顔」やリチャード・ブルックス監督の「ミスター・グッドバーを探して」などの前例もあって、さほど目新しいものではない。

 しかも、本作の登場人物たちが“堕ちていく”理由がどうにも観念的かつ単純で普遍性に欠けるのだ。日常生活が満たされないとか、親に対する過度のコンプレックスがあるとか、もっともらしいことが語られているが、実際はその程度では簡単にダークサイドには引き込まれないものだ。ここは観る者を納得させるような動機付けが必要なのだが、最後までそれは提示されない。

 さらに登場人物の一人が大学の日本文学の教員で、それに派生して“言葉なんか、覚えるんじゃなかった”という田村隆一の詩が頻繁にリフレインされるのも、映画のテーマを抽象的分野に追いやる結果になっている。誰しも闇の世界に足をすくわれる可能性があることを強烈な描写と共に描いた「冷たい熱帯魚」に比べると、質的に後れを取るのは仕方がないと思う。

 しかし、それでもこの映画が面白いのは女優陣の頑張りに尽きると言えよう。渋谷区円山町にある廃アパートで見つかった女の変死体をめぐり、捜査に当たる女刑事役の水野美紀の名がクレジットでは一番先に表示されるが、彼女は単なる狂言回しで演技面でも大したことはない。凄いのはあとの3人の女優だ。

 売れっ子作家の妻を演じる神楽坂恵は、貞淑な人妻が堕ちていくという黎明期のロマンポルノの代表作「団地妻 昼下がりの情事」に代表されるようなエロの定番設定を突き詰めたワイセツ性を発揮。特に裸で鏡の前に立ち、スーパーでの売り口上を延々と繰り返す場面は、まさに狂気の世界に一直線だ。

 昼は教壇に立ち、夜は街娼という二重生活を送る大学助教授に扮した冨樫真は初めて見る女優だが、並の神経の持ち主とは思えないエキセントリックさを醸し出している。さらに彼女の母親を演じる大方斐紗子は底知れぬ不気味さを周囲に漂わせ、ほとんど人間ではない(爆)。このベテラン女優の一筋縄ではいかない持ち味を引き出しただけでも、園監督の仕事ぶりは評価されるべきだろう。

 津田寛治をはじめとする男優陣も悪くはないのだが、女優達の“捨て身の演技”の前では影が薄いのは仕方がない。とにかく本作は、主題の曖昧さは脇に置いて、エロとグロに溢れた闇のテーマパークみたいな賑々しさを堪能する映画だと思う。上映時間は長いが、一時たりとも退屈させないシャシンだ。園監督の仕事には当分目が離せそうもない。
コメント
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