元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フェア・ゲーム」

2011-11-23 06:39:46 | 映画の感想(は行)

 (原題:Fair Game )映画の出来よりも、描かれる内容そのものが衝撃的な作品だ。イラク戦争前夜の情報戦を描く本作、開戦の大義名分であったはずの“イラクによる大量破壊兵器の保有”がデッチ上げであったことを、CIA側はとうの昔に知っていて、さらにはこの映画の主人公のように戦争を阻止しようとする動きがあったことが驚きである。

 いや、正確に言えば“知っていたこと”自体は問題ではない。大量破壊兵器が存在しないのならば、CIAは得意の特殊工作で“存在するように”見せかけようとすることもあり得たはずだ。実は私もイラク戦争の開戦時には“大量破壊兵器あろうと無かろうと関係ない。もしも無かったらCIAあたりが兵器の存在を捏造するのだろう”と思っていた。しかし、実際にはあれほどの兵力と予算を投入しながら、結局“大量破壊兵器はありませんでした”で終わってしまった。

 特殊工作の一つも満足に出来ない。大局的な国益はおろか、諜報活動の有用化さえ覚束ないアメリカという国の弱体化を目の当たりにするようである。我が国も、経済面でも足腰が立たなくなりつつあるアメリカをそろそろ見限る方法論があってもいいように思うのだが、相変わらず対米追随主義にかぶれている政治家が目に付くのは情けないことだ。

 この映画はCIAの工作員であったヴァレリー・プレイムが2007年に上梓した「格好の標的:CIAのトップエージェントは、いかにして国家に裏切られたか」という実録本を元にしている。彼女は世界中を飛び回って集めた情報により、イラクが大量破壊兵器を保有している可能性はゼロに等しいことを突き止める。ところが振り上げた拳を下ろせない当局側は、開戦に都合が悪い彼女の主張を叩き潰すため、彼女の身分をマスコミにリークし、職務を遂行できないようにしてしまう。

 実にシビアな事実だが、残念ながら映画は開戦しなければならない本当の理由まで示さない。単に個人対組織のバトルに収斂してしまうのは残念だ。ダグ・リーマンの演出は「ボーン・アイデンティティ」同様、表面上は取り繕われているが、深いところまで入っていけないもどかしさが付きまとう。

 ヴァレリーに扮するナオミ・ワッツは好演で、仕事と家庭の板挟みで悩むヒロイン像を上手く表現している。大使として海外に赴任していたこともある経験を活かし、ヴァレリーをサポートしてゆく夫役のショーン・ペンも適役。トム・マッカ―シー、ノア・エメリッヒといった脇の面子も良い。寒色系の絵作りがテーマの重大さを引き立てる。食い足りない箇所もあるが、国際情勢に興味を持っている観客にとっては必見と言える。
コメント
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