元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミッション:8ミニッツ」

2011-11-21 06:25:43 | 映画の感想(ま行)

 (原題:SOURCE CODE )ダンカン・ジョーンズ監督のセンスが活きたSF映画だ。前作「月に囚われた男」は荒唐無稽な設定を描いているようでいて、作品の焦点は見事にヒューマニズムに振られていた。本作も同様で、活劇の要素が多い筋書きの中に作者の主人公達を信頼しきっている様子が垣間見える。そのため観賞後の味わいは格別だ。

 シカゴで乗客が全員死亡するという列車爆破テロ事件が発生する。政府当局は真犯人を突き止めるため、ある犠牲者の死の8分前の意識に入り込む特殊な“装置”を作動。任務についたスティーヴンス大尉は、その8分間を何度も“体験”することにより、少しずつ事件の真相に近づいていく。しかし、実はこのミッションの背景にはスティーヴンス自身に関わる重大な秘密が隠されていた。

 死亡者の最後の8分間の記憶にサイコダイビングするという設定は面白い。しかも、それは何度でも疑似体験が可能だが、すでに起こった事実(過去)は変えようがないという厳然としたプロットが横たわっている。確かにこの任務は事件解決には役立つだろうが、果たして犠牲になった人々および疑似体験のたびに辛い思いをするスティーヴンス本人が“救われる”ことになるのか、そこが作劇上の大きな課題になることは言うまでもない。

 普通に考えれば事件はすでに発生しているので、タイムマシンでもないこの“装置”がオールマイティな力を発揮することはないように思える。ところがジョーンズ監督は巧みな演出力で、終盤にある種の“解決方法”を提示している。

 しかもそれは本作の惹句のような“映画好きほどだまされる”といった大向こうを唸らせるドンデン返しではなく、ストーリーを別の視点から捉えることによる、まことにしなやかなスタイルで観客にアピールするのだ。それを可能にしたのは、言うまでもなく作者のとことんポジティヴなスタンスである。少しでも斜に構えるようなポーズを見せると、この結末は絵空事になっていただろう。

 主役のジェイク・ギレンホール、相手役のミシェル・モナハン、そして主人公にシンパシーを抱く女性将校に扮したヴェラ・ファーミガなど、キャストは皆好演。幾度もアングルを変えて描かれるディザスター場面の迫力や、サスペンスを盛り上げるテンポの良さも要チェック。他の活劇専門ハリウッド監督(?)のような腕力重視の面は見当たらない代わりに、知的なセンスが全編を覆う。この監督の作品は今後も追いかけたいと思う。
コメント
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