元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「深い河」

2007-06-26 06:57:23 | 映画の感想(は行)

 95年作品。この映画が公開された当時、一連のオウム関連の事件について、既存の宗教関係者が新聞・雑誌などでコメントを寄せているのをよく目にしたが、内容としては“オウムは宗教の風上にも置けない過激集団だ”として切り捨てるものがけっこうあったように記憶している。でも私はその意見には異議を唱えたい。だいたい宗教はそれ自体“過激”で“狂気じみた”ものではないのか。

 仏教の出家にしても、俗世間のしがらみを放り出して悟りを得るのはいいが、周りの者はどう思うか。理不尽な荒行を強いる密教や、仕事中だろうと時間になるとメッカに向かって拝礼してしまうイスラム教、あまり健康にいいとは思えない断食など、通常の社会生活を送る身からすれば実にヘンで狂気じみている行為だ。神の名において大殺戮をやった十字軍の例を出すまでもなく、宗教が過激な行動に走る可能性は今も昔もある。もちろん宗教の目的は“信じる者は救われる”というスローガンを信者にたたき込むことなので、信者が救われた気になって幸福な気分を味わえればそれでOK。社会性や世間体など二の次だ。

 「深い河」は遠藤周作の原作を「海と毒薬」に続いて熊井啓が演出したもの。苦悩を抱えガンジスを旅する日本人たち。“生まれ変わるから私を探して”との妻の遺言にこだわる中年男、戦時中に死者の肉を食べて生き延びたことを苦にし続けた戦友の霊を弔いたいという初老の男、誰も心から愛した事がないという女(秋吉久美子)etc.果たして彼らは救われるか。常識的に言えばそんなことは有り得ない。輪廻転生なんて迷信だし、死んだ戦友がわざわざインドまで行って弔ってほしいと言ったわけでもない。愛した事がないなどとふざけた悩みを持った女なんて問題外。でも彼らはこのインドへの旅で何かを“悟った”のだという。それはまったく個人的な思い込みに過ぎず、事態がどうこうするものでもない。“信じる者は救われる”の世界である。“宗教にハマる”プロセスを多少意地悪く描いたのがこの映画の取り柄といえばそうだろうか。

 彼らよりカトリックの神父である大津(奥田瑛二)のキャラクターが興味深い。善悪二元論のキリスト教の発想について行けず、インドにたどり着き仏教やヒンズー教の納得できる部分だけを取り入れて、自己流の“オールラウンドな宗教心”(?)を想定し、日夜ボランティア活動に励む。キリスト教から見れば異端もいいところ。でも彼自身はそれで満足しているし、社会的に役だっている。“宗教ってのは世のため人のためになければならない”という日本人独特の宗教観(こう書くと反論が来そうだな ^^;)に到達する過程をわかりやすく描いている。

 観ていてあまり面白い映画でもないが、ちょっと興味を引くような内容だ。ただ、栃沢正夫のカメラが捉えたインドの風景と松村禎三の音楽は素晴らしい。それにしても秋吉久美子は相変わらず魅力的で、40歳にもなって女子大生の役演じて(回想シーンだけど)違和感がないのは、当時は世界広しといえど彼女とイザベル・アジャーニぐらいしかいなかっただろう(爆)。
コメント
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