元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「クリムゾン・タイド」

2007-06-08 06:47:37 | 映画の感想(か行)
 (原題:Crimson Tide)95年作品。ロシアで極右勢力が核基地を掌握。アメリカと日本に向けてのミサイル発射のスタンバイ体制についた。これに対しSLBM登載のアメリカ原潜アラバマが出撃。発射準備の指令が届くが、敵原潜と交戦状態となり、深く潜行しすぎたり魚雷攻撃で通信機が故障したりで肝心の発射命令(あるいは中止命令)となるはずの次の通信が途中で切れてしまう。たたき上げで実戦タイプの艦長(ジーン・ハックマン)はこれを無効とし、発射ボタンを押そうとする。対して士官学校出の若手エリートの副官(デンゼル・ワシントン)は指令が確認できるまでは絶対発射すべきではないと主張。乗組員全員を巻き込んでの葛藤が始まる。

 さて、私はこの設定だけで唖然呆然になった。戦闘のダメージや事故で重要な通信が途切れることは、フツーの感覚で考えると十分有り得ることではないか。それを勝手に“こうだ”と決めつけて突っ走る艦長なんてほとんど軍法会議ものじゃないのか? しかもこの場合、いったんやっちゃうと世界の終わりになるほどの重大事だ。まったく何考えてんだ。

 なるほど、ハックマンは融通のきかない好戦家ぶりをうまく体現化している。でも、戦いが好きだからこういう無茶をしていいと、観客が納得すると思ってんのか。たとえ好戦家でも、スタンドプレイに走らせないのが軍規ってものじゃないのか。まさかアメリカ軍はこういう低レベルのトラブルにさえ対応していない命令体系しか持っていないのだろうか。もしそうならオソロシイことだ(ラストのクレジットで、次の年から発射命令は大統領がすることになった、と出ているけどね)。

 前提からしてそうなので、映画自体も居心地が悪くて仕方がなかった。D・ワシントンはいつも通り正義漢を熱演しているが、ステレオタイプの域を出ない。トニー・スコットの演出は相変わらず。ポリシーはないが観ている間は退屈しないようなカロリーの高さ(?)を誇っている。展開に迫力はあるし、ハンス・ジマーの音楽もいいし、SFXは万全だし、音響効果も言うことがない。しかし、よく考えるとこの“両極端の二項対立”という図式は「駆逐艦ベッドフォード作戦」や「ケイン号の叛乱」みたいに昔からあって、新鮮味は薄いと言わねばなるまい。

 観る価値ないとは言わない。見所もあるんだが、深みはない。見せ物としての面白さだけで、忘れるのも早い映画だと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする