元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「きみにしか聞こえない」

2007-06-29 06:41:18 | 映画の感想(か行)

 何やら安手の韓流ドラマみたいな話である。まず過剰なほどのモノローグが鬱陶しい。微妙な内面の動きまで、滔々と主人公は声に出して伝えてくれる。少しは映像やら暗示やらで物語を綴ろうとするまっとうな努力ぐらいしてみろと言いたい。

 次に、孤独な女子学生が公園で拾ったおもちゃの携帯電話に着信が入り、それで彼女は通話相手の青年と交流することになるのだが、この重要な小道具として登場したはずのおもちゃの携帯電話がそれ以降まったく役に立っていないのには呆れた。何と二人はテレパシーじみた“脳内通信”で話を交わすようになる。二人の間には一時間のタイムラグがあるという多少捻った設定にはなっているが、普通の電話よろしく通話したいときに(よほど相手の都合が悪い場合は別にして)簡単に通話できてしまうのは、かなり緊張感が削がれる。

 それよりおもちゃの携帯電話がなければ“通話”が出来ないような設定にして、途中でそれが紛失したり盗難にあったり、果ては“本物の持ち主”が現れて返還を要求したりといった、いろんなトラブルに遭遇するように展開した方が盛り上がるのではないだろうか。

 さらにまずい点は、劇中の“脳内通話”にもう一人別の女性が割って入ってくるところ。彼女の“正体”は早々に割れてしまうが、これがまあ“語るに落ちる”ようなことばかり言うのは鼻白む思いである。そして映画の結末は、こんなことになるのなら最初から“脳内通話”など存在しない方が良かったとも思える脱力ぶりだ。違う結びに持って行く筋道はけっこうあったと思うのだが・・・・。

 では観る価値がないのかと言えば、そうでもない。それはキャストの存在感である。今年3本目の主役を張る成海璃子は、すでにこの年齢で新人らしからぬ“貫禄”さえも身につけており、舌を巻くしかない(今回も実年齢より上の役だ)。彼女のようなルックス抜群の女生徒が学校で阻害されているとは考えにくいが(用もないのに周囲に男子が群がりそうだ・・・・笑)、成海だったら“まあ、いいじゃないか”と許してしまいそうだ(爆)。

 相手役の小出恵介もナイーヴな好演。耳が不自由ながら精一杯に生きる健気な若者像を、クサくなる一歩手前で踏みとどまる冷静さを見せている。彼の伯母を演じる八千草薫は「しゃべれども しゃべれども」に続く名脇役ぶり。こういうベテランが控えているとドラマが締まる。荻島達也の演出は現時点では凡庸だが、少なくとも不愉快な描写は見せていない。“俳優を見る映画”だと割り切れば、そこそこ楽しめる映画だろう。
コメント
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