元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「酔っぱらった馬の時間」

2007-06-28 22:14:31 | 映画の感想(や行)
 (原題:Zamani Baraye Masti Asbha )2000年作品。イラクとの国境に近いクルド人の村を舞台に、親に先立たれた兄弟たちの苦難の日々を描く、世界初の「クルド人を主人公にしたクルド語の映画」で、監督はイランの新鋭バフマン・ゴバディ。本作によりカンヌ国際映画祭のカメラドール賞を受賞している。

 日本で公開された多くのイラン映画がそうであるように、この作品も素人を中心としたキャスティングでドキュメンタリー・タッチの作劇を狙っているが、切迫度においては目を見張るものがある。ひとえにこれは現実のクルド人が置かれている境遇の厳しさが画面の隅々にまで緊張感を横溢させているからだろう。生活のために国境を越えて危険な密輸に荷担する一家の次男や、意に添わない結婚を強いられる長女の哀しい運命が、作り事の範疇を超えて観る者の胸に迫ってくる。

 もちろん「映画の題材」と「映画の内容(出来不出来)」は別物であり、どんなにホットな素材を選んでも作り手の工夫がなければ評価には結びつかないのだが、この映画では一家の長兄を身障者にして超然としたキャラクターを付与させているところや、終盤の国境越えの映像的サスペンス等、映画的な興趣もちゃんと織り込んでいるのが素晴らしい。

 タイトルの「酔っぱらった馬」とは、密輸業者たちが荷役用のラバに酒を飲ませて寒さをしのぐところから取られている。警備兵に追われて逃げようとしても、主人公の連れていたラバは酔い潰れて歩けない。この雪の舞い散る荒涼とした大地をバックにしたクライマックスの愁嘆場は圧巻だ。
コメント
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