元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「愛と精霊の家」

2007-06-03 07:53:55 | 映画の感想(あ行)
 (原題:The House of The Spirits)93年ドイツ=デンマーク=ポルトガル合作。何と言っていいのだろう。確かに考えて作られており、存在感のある作品ではあるのだが、この居心地の悪さ。「ペレ」(87年)「愛の風景」(90年)でカンヌ映画祭2連勝のビレ・アウグスト監督による、南米チリの現代史をバックに大農場主の一家を描く大河ドラマである。

 1920年代、富豪の娘クララは姉の婚約者エステバンに好意を抱いていた。超能力を持つクララは姉が死ぬことを予知するが、どうしようも出来ない。そのため彼女は姉が死んだのは自分のせいだと思い込み、口をきくことをやめる。悲しみに暮れるエステバンは、それを忘れるかのように働き、裸一貫から大農場を興す。彼はやがて成長したクララと再会し、結婚する。娘ブランカが生まれ、幸せな日々が訪れるのもつかの間、同居していた姉フェルラとクララの同性愛的な親密さに嫉妬したエステバンは、姉を追い出す。保守党議員として政界に進出した一家の主を待っていたものは左翼勢力の台頭や軍部の独走といった逆風ばかり。ブランカが労働運動のリーダーと恋仲になるに及び、一家は激しい時代の波に呑み込まれていく。

 エステバンに扮するのはジェレミー・アイアンズ、クララはメリル・ストリープ、フェルラはグレン・クロース、ブランカにウィノナ・ライダー、ほかにヴァネッサ・レッドグレーブやアントニオ・バンデラス、アーウィン・ミューラー=スタールなどが顔を揃える、近来まれに見る豪華キャスト。音楽担当のハンス・ツィマーをはじめ、スタッフも凄いメンバーだ。

 頑迷な父親、封建主義的な領主、それに対する民衆運動、身寄りの無い私生児がドラマの鍵を握る点などなど、過去のアウグスト作品に共通するモチーフが数多く出てくる。力強いドラマ運びや肯定的スタンスも健在だ。アウグストは北欧出身であるためか、南米の作品にありがちの暑苦しさ(?)もない。

 しかし、このキャスティングではマトモな映画作りをしろという方が無理だ。寝たきりのエステバンの母親の、異様に太った造形は北欧リアリズムから一気にフェリーニ的寓話の世界に突入する。第一、ストリープとクロースが義理の姉妹役なんて、考えただけでもおぞましい(笑)。典型的イギリス紳士のアイアンズの娘が、いかにもイタリア系のW・ライダーなんて・・・・。超能力を扱ったり、悪霊祓いみたいなクロースの衣装とお嬢様風いでたちのストリープ。インディオの息子である労働運動家がなんでラテン系のバンデラスなのか。オカルト風描写も目立ったりして、こりゃ「精霊の家」というより、「アダムス・ファミリー」に近いぞ。

 それでも過剰な演技合戦を避けるため、クロースを早めに死なせ、ストリープには中盤まで口をきかせない。アイアンズにも「戦慄の絆」みたいな演技をさせていない。しかし、俳優それ自体の強すぎる個性は消えるわけではなく、外見のハデさにもかかわらず“自然な演技をしなきゃ”という無理な思い込みが登場人物の極端な不自然さを煽っている。観ていて居心地が悪いのはそのせいだろう。

 この物語に有名スターはいらない。出来れば、アウグストは製作総指揮に回って、監督は地元の力のある人材を起用した方がよかった。原作のイザベル・アジェンデは、軍事クーデターで死んだアジェンデ大統領の姪である。チリの歴史を描く格好の題材を映画化した結果がこれでは、原作者も納得しないだろうと思うが・・・・。
コメント
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