(原題:The Prestige)面白くない。一番の理由は、こういうネタにまるで不似合いな“SF的トンデモ理論”が大きなプロットとして組み込まれているからだ。
クリストファー・プリーストの小説「奇術師」の映画化で、19世紀末のロンドンを舞台に、因縁深いライバル関係にある2人の天才マジシャンの戦いを描く本作、しかも監督は「メメント」などのクリストファー・ノーランだから、徹底的な理詰めの展開をお馴染みのトリッキィな演出で披露してくれるのかと思うと、完全に裏切られる。
マジックってのは超現実的な事物ではない。論理的な“段取り”の世界であり、ドラスティックなショービジネス以外の何物でもない。だからこそ面白いのだ。かような“トンデモ理論”を導入したいのなら、マジックを題材にする必要はない。百歩譲って、こういう“トンデモ理論”を取り入れなければならないほど、主人公達の立場が切羽詰まったものだったとしても、映画としてはその切迫した背景を内面描写でもシチュエーションでも、もっとテンション上げて追い込むべきであった。
しかし、ノーラン監督得意の“時制のランダム配置”がそれを妨害する。これでは登場人物の“意識の流れ”が断ち切られてしまう。実は“トンデモ理論”以外にもうひとつ重大な御都合主義があるのだが、それをごまかすために時制をバラバラにしていると思われても仕方がないだろう。
また肝心のマジックの場面にしても、デイヴィッド・カッパーフィールドが監修している割には、テレビのマジックショーと変わらないショボさだ。別に大仰なイリュージョンをやる必要はなく、単にカメラワークやカッティングなどを工夫した映画ならではの映像的仕掛けが欲しいのだが、それがまるで不発である。
主演のヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベールは熱演しているものの、マジシャンの狂気とも言える常軌を逸した情熱が感じられない。当然カリスマ性のかけらもなく、単なる青二才のように見える。ヒロイン役のスカーレット・ヨハンソンもあまりに小粒で印象に残らない。面白かったのは貫禄で見せるマイケル・ケインと、久々のデイヴィッド・ボウイぐらいか。豪華な時代劇セットだけは見事だが、それ以外には見所はないといえる。