(原題:Crash)「ミリオンダラー・ベイビー」の製作・脚本を担当したテレビ界出身のポール・ハギスの監督デビュー作だが、焦点の定まらない凡作だった「ミリオン~」がそうであるように、本作も深刻ぶっているようで実は内容が薄い。
ロスアンジェルスを舞台に、黒人刑事、ベテランと若手の警官、ドラマ演出家、雑貨店の主人などさまざまな階層・人種のキャラクターを交錯させて、ラストに“テーマのようなもの”を差し出すという方法論(群像劇)自体は別に目新しくもない。
それに各登場人物の配置が呆れるほど図式的だ。白人の隣に都合の良いようにマイノリティが“万遍なく”並んでいて、しかもそれらが皆“ありがちな”職業・設定で登場するのにはるのには失笑を禁じ得ない。もちろん“裕福な有色人種”や“白人貧困層”なんてのも出てくるが、それにしたって“中には例外もありますよ”というエクスキューズに過ぎないだろう。
さらに“誰にでも、良い面と悪い面がありますよ”といった御為ごかしのスローガンを臆面もなく披露するに至っては、この作者、人間ってものをとことんナメているとしか思えない。
ただし、R・アルトマンの「ショート・カッツ」やP・T・アンダーソンの「マグノリア」といった出来の良くない群像劇と違って最後まで何とか観られたのは、題材として描かれる人種差別が本当に深刻な問題であるからだ。どんな人間でも差別感情を持っている。ただしそれが大手を振ってまかり通ってしまうと、世の中が滅茶苦茶になってしまう。
ただし差別問題は映画とは別に厳然と実社会に存在しているものであり、それを本作が扱っているからといって、映画の質そのものが上がるわけではないのは当然のことだ。