元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「目撃」

2006-04-02 18:35:24 | 映画の感想(ま行)
 (原題:Absolute Power)97年作品。富豪の家に押し入った初老の泥棒ルーサー(クリント・イーストウッド)は偶然に老富豪(E・G・マーシャル)の若い妻が夫の留守中に不倫相手を引き入れるのを見る。相手は現職の大統領(ジーン・ハックマン)だった。暴力プレイを要求する男と拒絶する女がもみ合ううち、同行していた補佐官が女を射殺する。事件の揉み消しをはかる大統領側はルーサーの存在に気付き、ルーサーの娘で検察官のケイト(ローラ・リニー)もろとも抹殺しようとする。監督はイーストウッド自身。

 だいたい私は「ガントレット」を除いてイーストウッドの監督作をいいと思ったことはない。これも同様である。冒頭にルーサーが富豪の家に忍び込み、殺人を目撃するまでの展開が信じられないほどノロい。さらに、大統領が正体をあらわしてルーサー側を追いつめるまでの設定が、これまた非常にまどろっこしい。事件担当の刑事(エド・ハリス)がケイトに恋心を抱くあたりの描写が無茶苦茶タルい。マトモな監督が撮れば30分ですむところを倍以上に引き延ばしており、かといってプロット的に面白いわけでもなく、要するにアクビの連続である。少なくともサスペンス映画としては何も描かれていない。

 それでは何があるのかというと、怪盗ルーサーの人間離れした神出鬼没ぶりなのである。どんなピンチになっても切り抜けて、かすり傷ひとつ負わない主人公。おいおい、これは勧善懲悪のヒーローものなのか・・・・なんて思ったが、それにしては痛快さがまるでない。よく考えると、これは「許されざる者」の現代版なのだ(敵役もG・ハックマンだし)。権力に対抗するさすらいの(アンチ)ヒーローみたいな感じを主人公に求めているのだろう。

 でもね、ハッキリ言って現代劇でこの方法論が通用するわけがないんだよ。社会が複雑化した今、“誰が「許されざる者」か!”なんて大上段に振りかぶられても、何と答えりゃいいのか。皆を指導する立場にあるはずの大統領(保安官)を悪役に持ってくるというプロットのひねりも、単なる二者択一のパターンから一歩も出ていない。そして老富豪の復讐を描く終盤の後味の悪さ。心底ウンザリしてしまった。

 こんな作品を観るにつけ、イーストウッドは頭の中だけで作られた“美意識”とやらを思い入れたっぷりに描くしか能がないことを実感する。ただし、世間では彼の演出家としての仕事は大いに評価されているので、私のような“少数派”が何を言おうと屁の突っ張りにもならないのは確かのようだ(爆)。
コメント
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