元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「燃ゆるとき」

2006-04-04 06:47:17 | 映画の感想(ま行)

 マルちゃんブランドを展開する東洋水産の、アメリカ進出時の苦闘を描く高杉良の経済小説の映画化。私は原作を読んでいるが、面白さの点では映画版の方が上である。

 勝因は主人公の資材担当責任者に中井貴一を持ってきたことだ。近年は悪役などもこなして演目の幅を広げている彼だが、当作では髪をビシッと七三に分け(笑)、何事も正攻法でぶつかるマジメ人間を熱く演じており、見事に持ち味を全面展開している。彼以外の俳優がやったら話自体が絵空事になっていただろう。脇に鹿賀丈史や津川雅彦、伊武雅刀といったクサい役者を配しているのに、それがあまり気にならないのも、この“中井カラー”が全編を覆っているためだ(爆)。

 ストーリーも山あり谷ありで、トラブルが要領よく解決されてゆくだけで幾分鼻白む原作よりも観客へのアピール度は高い。

 生き馬の目を抜くような米ビジネス界の容赦のなさも十分描かれている。主人公の側近を買収してセクハラ疑惑をデッチあげるのも閉口したが、労働争議を煽ってM&Aの口実とするあたりは呆れた。本来は従業員の利益を代表するはずの労組が、企業解体の先兵と成り果てている状況はまさに末期的だ。

 しかしこういう“労働者の不利益を利益だと言いくるめる遣り口”にナイーヴな一般ピープルがコロッとダマされるのは日本でも一緒。本作は米国の“弱肉強食自由主義”に対するアンチテーゼであるだけではなく、理不尽なリストラ優先の経営手法が評価され、それを自分達が苦しくなるにもかかわらず“構造改革だ!”と国民が囃し立てる我が国の歪んだ状況への批判のメッセージでもある。

 それにしても、東洋水産のような日本的経営を遵守する企業がアメリカで快進撃を続けていることは、同じ日本のサラリーマンとして実に喜ばしい。細野辰興の演出は泥臭いが、作者の熱い信念はそれをカバーして余りある。地味だが、実に好感が持てる作品だ。
コメント
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