元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「タイムリセット 運命からの逃走」

2006-04-14 22:14:54 | 映画の感想(た行)
 97年作品。ガールフレンドのワーン(ナッタリガー・タンプリダーナン)が交通事故で危篤状態になり、取り乱すジァップ(サンヤー・クンナゴーン)は、寺でひとりの僧侶から“それは彼女の前世のカルマが原因だ。助けたければお前自身がこの世で5人の命を救わなければならない”と告げられる。彼は死亡事故を予言する紙切れに従い、死の直前にある人々の元に走るのだった。タイで大ヒットしたファンタジー仕立てのサスペンス編。

 タイに限らず、東南アジアの映画は“ゆったり、のんびり”としたタッチが目に付くが、これは珍しくスピード感あふれる作劇で観客を引っ張ってくれる。それもそのはず、監督は「The EYE」シリーズで知られる香港人のオキサイド・パンで、これがデビュー作だ。

 ジァップが助けようとする人たちは、公金を競馬に使い込み自殺しようとする警官や受験に失敗してビルの屋上から飛び降りる寸前の少年、暴走者にはねられそうになる子供や、強盗から射殺される運命にある警官など、どれもが絶体絶命の事態。これを限られた時間内に助けなければならない。とにかく“一難去って、また一難”という事態がずーっと続き、息つくヒマがない。ワン・アイデアには違いないのだが、とにかく見せきってしまう。

 映像が効果的だ。キレのいいハッタリかませた画像処理。駅のホームから列車に飛び込む少女を映したショッキングな画面が食堂のテレビから流されるが、それは“予告”であり、主人公以外には見えないというシークエンスは特に秀逸。さらにそれに続く事故現場と皿の上のケチャップがオーバーラップするあざとい場面もカッティングの上手さでクリアー。すぐさま主人公の活劇場面に移るという呼吸も良い。

 全体的に、映像に少しウォン・カーウァイあたりが入っているかなあと思うが、徹底的にエンタテインメントに振った使い方なのであまり気にならない。スローモーションを活かした画面処理とSFXが絶妙の効果。ここまでやれば、ラストのやや強引なドンデン返し(?)も許してしまおう(笑)。

 異邦人の手による映画だが、仏教国タイの運命観・宗教観をちゃんと押さえているところが本国でも大ヒットした理由だろう。パン監督のその後のフィルモグラフィはあまり感心しないが、この作品に限ってはオッケーだ。ハリウッドでもリメイクできそうな題材である。
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“ブランド戦略”がオーディオ業界を救う(笑)。

2006-04-14 06:56:02 | プア・オーディオへの招待
 AV機器の専門サイト「phileweb」において、音楽評論家の岡村詩野とビジネスライターの渡部由美子が「女性のライフスタイルにとっての、音楽や映画、そしてその再生機器」について語った記事が掲載されていた。以下、一部を抜粋して紹介してみる。

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(インタビュアー)オーディオの再生装置とはどうあるべきだとお思いになりますか?
(岡村)当然、音質が良くなければ話にならないと思いますよ。(中略)置き場に困らないとか、コンパクトとか、そういうことは大事ですよね。
(渡部)そうですね、総合的に見てしまいますよね。音もそうだし、コンパクトさとか、トータルですよね。
(岡村)私は機能と音質を除けばデザインが一番大切です。女性はデザインを重視する人が圧倒的に多いと思います。

(メーカー担当者)女性の方の多くは音質を非常に重要視しているけれど、音質の良い・悪いを比べていく手間を面倒に感じてしまうので、例えばデザインだったり価格だったり、別の要素での満足を求めてしまうのでしょうか。(以下略)
(渡部)情報も少ないんですよ。男性誌では取り上げられますが、女性誌ではオーディオ情報がほとんどありません。
(岡村)結局は「よくわからないけど、デザインがよくて、安くて、小さいものでいいや」ということになってくると思うんです。オーディオはまず入り口の敷居が少し高くなっているだけだと思います。

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 数年前、某掲示板に「私の周りにはCDを数百枚持っていたり楽器演奏が得意だったりする女性がいるが、彼女たちはズタボロのラジカセしか持っていない。結局、女ってものは音の善し悪しが分からないんだな。HA!」みたいなゴーマン極まりないことを書き散らかしたことがあるが、考えてみれば立派な再生機器を使っているかどうかが“音の善し悪しが分かること”に繋がるわけでもない。医学的に音を聴き分ける能力に男女間で差があるなんて聞いたこともないし、なんとまあ失礼なことを書いたのかと反省している(核自爆)。

 要するに、「phileweb」の記事にもあるように、再生機器の選択における「メカがどうのこうの」というネタ自体が女性にとってのハードルの高さに繋がっており、音の善し悪しを確かめる前に敬遠してしまうだけだろう。だから「デザインがよくて、安くて、小さいものでいいや」と妥協してしまう。しかし、その「(パッと見ただけの)デザインがよくて、安くて、小さいもの」というのは、概して低品質だ。そういうローエンドの機種の音ばかり聴いていると、本来良い音を聴き分けられるはずの耳も鈍ってくるかもしれない。

 その「ハードルの高さ」を一瞬で消し飛ばす方法が一つだけある。それは「ブランド」だ。

 女性のブランド好きは誰しも認めるところだろう。有名ブランドであれば、多少収入に合わなくても、ダンナに内緒で平気で買ってしまうのが女性というものだ(←おおっ、またまた物議を醸しそうな表現 ^^;)。だからオーディオ機器にブランド性を持たせれば、市場に溢れる「安かろう、悪かろう」の商品を駆逐することが出来る。

 では音響メーカーがグッチだのエルメスだのといった商標権を一時的に買い取り、既存の製品に貼り付ければ良いのか・・・・というと(笑)、そんな姑息な方法はすぐに見透かされる。いわばピエール・カルダン印のオジサン用靴下と同等のレベルだ(爆)。ブランドはそれぞれの作り手が一から積み上げるべきものである。

 この「phileweb」の記事はBOSEの新サウンド・システム「uMusic」機能のPRに関連して書かれたものだ。BOSEといえば、AV機器に興味のない人でも名前ぐらいは知っている。「何やらスゴい機器を作っているメーカーらしい」という認識は一般的になっている。だが、BOSEの製品はそれほど高価格ではない。学生がバイトして買える機器だってある。だが「BOSEって安物じゃん」という声は(マニア以外では)あまり聞かない。それはBOSEという「決して低くはないブランド・イメージ」を定着化させるマーケティングと、それをクリアできるだけの製品ラインナップを作り上げているからだ。いくらBOSEの製品は高級ではないとはいっても、そのへんのオモチャみたいなミニコンポなんて手掛けない。ローエンドの品目でも、立派にB0SEのクォリティは維持されている。

 対して既存の国内メーカーはどうか。オンキヨーにしてもビクターにしてもパイオニアにしても、確かに上級者向けの高価な製品も出している。だが一方で、チャチなラジカセもどきも作っている。オンキヨーのミニコンポを買っても、そんなのは自慢にもならないし、所有欲も十分満たされない。ただ「音楽が聴ける」という当たり前の環境を得ただけだ。こんなのは女性が好きな「ブランドの世界」とはほど遠く、当然ビクターもパイオニアも「ブランド」たり得ない。

 ピュア・オーディオの専門メーカーという位置付けのDENONなんて問題外。「でのん」という冴えない読み方はもとより、10万円以下のアンプでも重さが15kg弱で奥行き40cm以上、もっと上の製品になると高さが18cmという重厚長大さ。いくら音が良くても、所謂「ブランド」とは最も遠い位置にある。

 BOSEが「ブランド」たり得ているのは、そのデザインによるところも大きい。だが、国内メーカーのデザイン構築能力はその足元にも及ばない。確かに「(パッと見が良いだけの)安物向けのデザイン」はこなすが、質感を伴ったマトモな製品のデザインはまるでなっていない。これでは「ブランド」を展開することができない。

 ではどうすればいいかというと、そのヒントは80年代初頭に松下電器がTechnics印で展開していた「コンサイス・コンポ」と呼ばれた一連の商品にあると思う。当製品は寸法をLPレコードのジャケットのサイズに合わせ、音質も上々だった。価格面でも決して高級品ではなかったが、それほど安価でもなく、学生が手に入れるにはちょっとキツいけど、カタギの勤め人ならば少し奮発すれば買えるレベル。アンプなんてセパレート型だったし、レコードプレーヤーに至ってはディスクを固定してのリニアトラッキング仕様という凝りようだった。見た目も安アパートに置くには無理があるが(笑)庶民が少し背伸びして購入出来るレベルの小洒落たマンションにはベストフィットだ。こういう「誰にでも分かる所有欲と優越感がくすぐられる商品」こそが「ブランド」を名乗る価値がある。

 で、やっぱり一番大事なのは「適度なコンパクトさ」だろう。アンプ類に関してはDENONに代表される「恰幅の良さ」なんて、一部のマニアしか評価しないし、女性にとっては“ドン引き”だ。かといって、量販店で扱っているチンケなミニコンポみたいに「幅20cm以下、高さ10数cm」なんてのは安っぽい。ここは「コンサイス・コンポ」のように「幅が30数cmで薄型」というのが良いと思う。それにしても、単品で売っているアンプ類の幅はたぶん40年以上前からどこのメーカーも40数cmと判で押したように決まっているが、あの「規格」はマーケティング面ではほとんど意味がない。少なくとも「ブランド」を構成する上では邪魔だ。

 そしてデザイン。ここは一般にも名を知られたB&OをはじめMYRYADROKSANYBALYRANORTH STAR DESIGNのような欧州メーカーを見習って、かつ「物真似」には終わらせず、独自にカッコ良さを追求してほしい。そうすりゃ所詮アメリカのメーカーでしかないBOSEなんてすぐに追い抜く。仕上げもツマミをすべてアルミ無垢にする等、質感を高めることだ。

 さらに重要なのは「ブランド名」だ。いくら見てくれが良くても、オンキヨーは「音響」だし、DENONは「電音」である。ティアックが高級品に「エソテリック」と名付けているように、あるいは昔ソニーが一部の商品に「ESPRIT」と命名したように、企業名とは別に「女性向けのブランド」にふさわしいネーミングを用意すればいい。

 具体的なマーケティングとしては、決して「ゴチャゴチャとして狭いオーディオ専門店」で扱ってはならない(笑)。○○電器みたいな大手量販店もダメ。デパートやファッションビルに売り場を設けるべし。それと月9のようなテレビドラマに頻繁に小道具として登場させ、主演のキムタクあたりに“ぶっちゃけ、安物ミニコンポで満足している女って、耳が悪そうで、ついでに頭も悪そうじゃん”なんてセリフを吐かせれば完璧だ(爆)。

 ・・・・まあ、いろいろと書いてきたけど、この「ブランド戦略」がアピール出来る対象は女性だけではない。「いい音で聴きたいけどフルサイズのうすらデカい機器を置くスペースはないし、第一そんなのは女房子供(orガールフレンド)からオタク扱いされて損だ」と思っている中堅オーディオファンの野郎どもにも恩恵を与えるはずだ。それとそういう新たな市場が開拓されると、家電メーカーや新規企業も参入して、ますますこの分野が面白くなってくるだろう。

 なお、スピーカーに関してはあえて言及していないけど、なぜかといえば、すでに安価でコンパクトでしゃれたデザインで、音質も悪くない海外製スピーカーが数多く輸入されており、今さら国内メーカーに頑張ってもらう必要がないからだ(国内で「ブランド」を展開できそうなスピーカーは富士通テンのECLIPSE ぐらい)。この件については、また別の機会に書くことにします。
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