元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「レザボアドッグス」

2006-04-07 06:43:46 | 映画の感想(ら行)
 (原題:Reservoir Dogs)91年作品。クエンティン・タランティーノの監督デビュー作にして、彼の最良作。ロスアンジェルスの宝石店を襲った強盗団が、一味に紛れ込んだ囮捜査の刑事によって仲間割れしてゆく様子を描くクライム・ストーリー。日本で公開された時は「警官の耳をそぎ落とす」などの残虐描写が先行して話題になっていたことから、全篇これ過激なヴァイオレンスのつるべ打ちかと思ったら完全に裏切られた。アクション映画らしいシーンは必要最小限にとどめられており(普通ならハデに描く強盗シーンもそっくり省略)、登場人物たちの内面を丹念に描写する静的な場面がほとんどを占める。

 舞台劇を思わせる場面展開の少ない演出方法をスリリングに見せるのは、圧倒的なセリフの切れの良さである。冒頭、安食堂でマドンナの“ライク・ア・ヴァージン”についての鋭い分析を一方的にまくしたてる強盗団の一人(監督タランティーノが扮している)。それに対する他の連中の煙たい表情。そして別の一人がチップを払う払わないでボスとひと悶着を起こすあたりから、もう異様な緊張感が画面にみなぎっていく。汚い四文字言葉を連発する彼らのセリフは、それ自体が映像のリズムとなり、やがて突然強奪計画に失敗して逃げる彼らを描くシークェンスに移る暴力的なまでのカッティングの効果を絶大なものにしている。

 彼らは本名では呼ばれず、Mr.ホワイト、Mr.オレンジなどといったニックネームで呼び合う。そして服装は揃いも揃って黒のスーツにネクタイ、白いシャツにサングラスだ。外見からも名前からもパーソナリティを剥奪された彼らはしかし、せっぱつまったセリフの洪水と行動形態において、その個性を極限にまで露わにする。さらに、過剰なセリフがやがて現実と想像の境を無くしていく。囮捜査官が仲間の前でホラ話を披露しているうちに、あたかもそれが現実に起こったことのように、自身の回想場面に突入していくくだりは、まさに精神錯乱一歩手前の先鋭的な心理描写だ。

 カメラワークも要チェックだ。ののしり合うMr.ホワイトとMr.ピンクからすっとカメラ引くとそこにMr.ブロンドがじっと佇んでいた、というスリル満点のシークェンスをはじめ、ローアングルの固定カメラで廊下の向こうの登場人物をとらえる静謐なロング・ショット、かと思えばデ・パルマばりのえげつない移動撮影などなど、やりたい放題。冒頭近くの、登場人物たちが並んで通りを歩く姿をスローモーションで描くシーンはもうめちゃくちゃカッコいい。

 そして音楽だ。70年代のポップスを紹介するDJのドスのきいた声に乗って流れるのは、スティーラーズ・ホイールとかニルソンとかベドラムといった、“通”好みのナンバーばかり。作者のこだわりを感じさせる。

 当時は(今もだけど)“金だけかけたハデな見せ場を並べればアクション映画になる”と勘違いしている作品が目立っていた中、これは実に新鮮な魅力をたたえた活劇の快作だ。ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス、マイケル・マドセンなど、キャスティングも気合いが入っている。
コメント
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