元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ジャングル・フィーバー」

2006-04-17 06:54:09 | 映画の感想(さ行)
 (原題:Jungle Fever)91年作品。建築会社に勤める主人公フリッパー(ウェズリー・スナイプス)は、有能な建築設計技師であると同時に、会社でただ一人の黒人社員である。ある日、彼についた新しい秘書アンジェラ(アナベラ・シオラ)を見て彼は愕然とする。黒人の秘書を希望したフリッパーの意に反し、彼女が白人だったからだ。最初のうちこそ二人の間には壁が存在したものの、やがて恋が生まれる。だが、周囲のシビアーな状況は、だんだんと彼らを追い込んでいくのであった。監督はスパイク・リーで、同年のカンヌ映画祭に正式出品されている。

 何となく、焦点が絞りきれていない気がするのは私だけだろうか。当初は家庭を持つ黒人技師と白人女性(イタリア系)との不倫を、人種問題をからめて描いていると思ったのだが、途中からヒロインの元の彼氏が経営する店を舞台に、様々な人種の人々の人生模様が綴られたり、主人公と友人(リー監督自身)との対話劇やフリッパーの妻の友達が集まってのディスカッション劇が延々と展開されたり、話があちこちに飛ぶ傾向を見せる。そしてクラック中毒のフリッパーの兄が登場するに及んで、映画のまん中に麻薬問題が居座るようになる。序盤の内容から考えると、あまりタッチの違う決着で、見ているこちらは唖然とせざるを得ない。

 しかし、バラエティに富みすぎる内容は、それだけアメリカの黒人をとりまく状況が“黒人対白人”という単なる人種の対立の視点では語られないことを示しているとも言える。主人公の妻は黒人とはいえ、肌の色は白人に限りなく近い。また、イタリア系のヒロインの家庭は主人公のそれよりも貧しい。純粋な(?)黒人と髪が直毛の混血の黒人との確執。他の有色人種との社会的地位の違い。経済的な差別。スパイク・リー自身、ミドル・クラスの出身であるにもかかわらず、いつのまにか下層階級の人々の代弁者のように位置づけられしまった個人的ジレンマもある。言いたいことがたくさんあってまとまりがつかなくなった、という事実があったと思う。

 でもその“迷い”は決して否定されるものではない。状況をポジティヴにとらえようとする作者の意気込みが感じられて好ましくさえある。冒頭タイトルに代表されるような、音楽に合わせて映像をうねらせるテクニック、主人公の兄がたむろするアヘン窟の描写など、リー監督の類まれな演出力が発揮され、観ている者をぐいぐい引き込んでいく。2時間を超える上映時間も長くは感じない。

 しかしまあ、この頃のスパイク・リーの作風は実に野心的であったなあと痛感する。今は・・・・どうでもいい監督の一人だけどね(少なくとも、私にとっては ^^;)。
コメント
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